武藤佐枝子「マルテニツァを襟に」
ブルガリアに在住の歌人、武藤佐枝子さんの歌集、「マルテニツァを襟に」を読みおえる。
2012年、短歌研究社・刊。
仲宗角氏・選、535首。
先の1月24日の記事で、購入を報せた本である。
彼女はブルガリア在住の、唯一人の「コスモス」会員である。
故国を懐かしむ歌より、長く異国に住む心の葛藤(「味噌、醤油、梅干、緑茶、海藻を最低限置きソフィアに住み来ぬ」)、融和(「冬霞バルカンの峰に柔らかしレモンバームのティー香る朝」)などの歌に、僕は惹かれた。
異国に住み続けているだけでなく、彼女には心の1種の優しさ、寛さがある。
以下に7首を引く。
食卓の下に藁置き聖夜祝ふ村のしきたり今に続けり
全身に春の萌しを覚ゆるか牝牛(めすうし)今朝は地を蹴り走る
ベランダの衛星アンテナ宙に向き故国の様を映す世となる
この地球のいづこに生を終るとも良しと仰げり輝く火星を
日本語とブルガリア語を聞きわけて猫ブランカは夫婦を往き来す
成功を希ふ門出に水を撒く慣ひを今朝は子のためにする
ブルガリア初のメトロの動き出す聖水撒きて僧祈るなか
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