鈴江幸太郎「月輪」
初音書房「鈴江幸太郎全歌集」(1981年・刊)より、11番めの歌集、「月輪」を読みおえる。
今月9日の記事(←リンクしてある)で紹介した、「夜の岬」に継ぐものである。
原著は、初音書房、1972年・刊。
歌人・70歳~73歳の、538首を収める。
日常をあまり詠まず、旅の連作などに豊かな作品が多い(解説では「円熟」と書いてある)。
「アララギ」の流れだから、「写生」の自然詠・叙景歌が多いのも、肯われる。
以下に7首を引く。
瓶さまざまビニールの類の押し騰(あが)りし濱といへども春の草萌ゆ
一時閒走らば至る家の墓おもふのみにてこの度も見ず
ふる雨にうごく草踏みみゑさんのみ墓に立てり縁(えにし)おもひて
こころ伸ぶるけふの宿りを夕ぐるる波止(はと)は船より魚揚げてをり
爪叩(つまだた)くわが耳にのみ鳴りゆらぎやさしかそけし遠き世の鐘
甲板に柱をめぐり相追ひてゑらげる聲は幼な孫三人(たり)
それぞれに高層に慣れて子ら住めば我さへ移るマンション五階
涼を感じてもらえたら。
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