藤田冴「朝のパトス」
2005年、砂子屋書房・刊。岡井隆の跋文、「あとがき」を収める。
彼女には第1歌集「いんなあ・とりつぷ」(1995年、砂子屋書房・刊)、第3歌集「櫂をください」(2012年、短歌研究社・刊)があるが、僕は内容を知らない。
この歌集では、人生の感慨をレトリック豊かに、かつ素直に詠まれた作品が多い。
レトリックの生れた喜びを詠う歌など、ほほえましいくらいだ。
以下に7首を引く。
早春の土の香匂ふ野に出でて妥協のための種子を蒔くべし
虚空よりメールが届く……少しだけ不自由の苗も育ててゐます
アレンジはしとと優美で切り口ははつかに苦きレジュメが届く
急行が通過するとき顕ちきたるレトリックひとつさやさやと鳴る
口笛を吹けないあなたさみどりのいたや楓が呼んでゐるのに
微風すらしづめて夜半を唄ひゐる天動説を知らぬフルート
ペナルティをとられしことも夕暮れて鰤大根を煮炊き始めつ
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