山中律雄「変遷」
「運河」所属の歌人、山中律雄(やまなか・りつゆう)さんの第3歌集、「変遷」を読みおえる。
2009年、角川書店・刊。
彼は秋田県の山村の、寺院住職をしている。
貧しい村の風物と村人に、「思いの深さ」にこころを傾けて歌を詠んでいきたいと願う、と「あとがき」に書くけれども、信仰に頼らざるを得ない心身の貧しさを、本当に理解しているのだろうか。
もっとも僕は、俵万智「サラダ記念日」によって短歌への目を開いた者のひとりで、ライトヴァースをいまだに駄目だと思えなく、軽みを肯定している。
以下に6首を引く。
アイロンのあたたまるまで待つ妻の待つこと多きひと世とおもふ
台風に田畑のものも乏しきに村はこぞりて寺をやしなふ
朝はやき厨にたちて火のほとり水のほとりにはたらく妻は
重なれる歳月を経て父と母われと妻子らいづちに行かん
きぞの雨けふの疾風に萌え出でて峡の木立のけぶるごと見ゆ
ただ耐ふるのみに生ききて山あひのをみならはかく美しく老ゆ
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