斎藤史「魚歌」
積み上げてある本の中から、以前に買った、「斎藤史全歌集」(大和書房、1998年5刷)を引出して来て、初めより読み始めた。
斎藤史(さいとう・ふみ、1909年~2002年)の第1歌集は「魚歌」(1940年、ぐろりあ・そさえて刊、376首)。
彼女は初期、のちに「日本歌人」を創刊する、前川佐美雄らと歌を共にした。
「魚歌」の作品はモダニズムである。しかしよく知られているように、2・26事件に父が連座し、同級生・下級生が処刑された。
表現の自由は保障されておらず、父が陸軍将校だった立場もあり、韜晦的に詠うしかなかった。
以下に6首を引く。
白い手紙がとどいて明日は春となるうすいがらすも磨いて待たう
せめて苦悩の美しくあれ爪に染む煙草の脂(やに)を幾度ぬぐふ
岡に来て両腕に白い帆を張れば風はさかんな海賊のうた
野に捨てた黒い手袋も起きあがり指指に黄な花咲かせだす
暴力のかくうつくしき世に住みてひねもすうたふわが子守うた
をりをりは老猫のごとくさらばふを人に見らゆな見たまふなかれ
(漢字の旧字を新字に替えた所があります)。
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