伊勢方信「月魄」
角川書店の「21世紀歌人シリーズ」より、伊勢方信「月魄」を読みおえる。
2008年・刊。1首1行、1ページ2首組、231ページ。
伊勢方信(いせ・ほうしん)第6歌集、「月魄(げっぱく)」403首。
彼は「朱竹」代表、「笛」会員、他、文学上の様々な役職を担っている。
嵐の予兆を告げる叫びではなく(勝手な言い分だが)、6年後の今は、滅びゆくものへの優しい挽歌がふさわしいと、ここのところ読んでいる立原道造のソネットの連想で思う。
ただし自分だって、まだまだ生き延びる積もりではいるのだが。
以下に6首を引く。
旱魃のダム湖の底ひに光りゐる水が小さき皺をひろぐる
合歓はやも散りてしまへり観音の肩にさはなる蕊を降らして
バーゲンのバッグ求めて重ね貼りの値札はづすを妻はたのしむ
槌の跡尖りてかなしとベルリンの壁の残片みやげに貰ふ
死のかたち美に遠き世をミイラ化と語尾あげて告ぐアナウンサーは
どんでんがへしなきしあはせを歩みきて踏む霜柱音なく崩る
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