安岡章太郎の小説、「遁走」を読みおえる。
角川文庫、昭和51年・初版。
この小説は、軍人としては劣る主人公が、軍隊で苦労し、罹病と様ざまな幸運によって、内地帰還に向かうまでの物語である。
カバーの見返しの惹き句に、「旧軍隊の愚劣な日常」という言葉がある。
もし「旧軍隊」が愚劣であったのなら、その愚劣さは、組織の愚劣さであり、世間の愚劣さである。
彼は仲間に、「自分は反軍主義者、アンチ・ミリタリストだ」と洩らしてしまう場面がある。
彼の反軍主義的な視線が、敗戦後の反軍主義とそっくりで、かなりいかがわしい。
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