カテゴリ「詩集」の190件の記事 Feed

2016年9月 1日 (木)

現代詩文庫「茨木のり子詩集」より「未刊詩編から」

 花神社「茨木のり子全詩集」(2013年・2刷)より、1969年に思潮社より刊行された、現代詩文庫20「茨木のり子詩集」の「未刊詩編から」を読みおえる。書き下ろしを含む15編である。

 先行する第3詩集「鎮魂歌」は、先の8月26日の記事(←リンクしてある)で紹介した。

 「あいなめ」は、漁獲の減ったアイナメに言寄せて、「別れも告げず 脅迫もせず 彼方へと/去りに去りゆくものの気配/ことあげしないことがなにかひどくおそろしい」と、背を向けて去ってゆく者たちを描いているようだ。

 「首吊」は、父の検死した首吊を、「この世の酷薄さをキュッとしぼって形にしたような/てるてる坊主は/時として 私のなかで いまだにゆれる」と、自死した弱者を悼む。

 中流市民の女性詩人として、最も柔軟な心を保った人だった。

Photoフリー素材サイト「Pixabay」より、イチジクの1枚。

2016年8月26日 (金)

茨木のり子「鎮魂歌」

 花神社「茨木のり子全詩集」(2013年・2刷)より、第3詩集「鎮魂歌」を読みおえる。

 第2詩集「見えない配達夫」は、先の8月18日の記事(←リンクしてある)にアップした。

 「鎮魂歌」は、1965年、思潮社・刊。14編。

 「花の名」は、彼女風の父への挽歌である。こののちも幾つかの(多くの?)挽歌を書いた。

 「私のカメラ」「大男のための子守歌」は、夫への相聞だろう。夫が大男だったかは、別として。

 「鯛」は、最終行に「愛もまたゆうに奴隷への罠たりうる」と戒めている。

 長編「りゅうりぇんれんの物語」は、強制連行を扱うが、後半に美文美談調になったようで惜しい。

Photo「フリー素材タウン」より、夕陽の1枚。

2016年8月18日 (木)

茨木のり子「見えない配達夫」

 花神社「茨木のり子全詩集」(2013年・2刷)より、第2詩集「見えない配達夫」(1958年、飯塚書店・刊)を読みおえる。

 第1詩集「対話」は、先の8月12日の記事(←リンクしてある)で紹介した。

 「真夏の夜の夢」では、「その臭さ 醜さ/ああ いっそせいせいする/ホモ・サピエンスというものは/おしなべて同じ愚鈍の 飽きっぽい/忘れっぽい ぐうたらべえの種族なんだ」と、知識人による大衆蔑視を明らかにする。同編の日本の未来への希望も、進歩的詩人の力では、どうにもならなかった。

 「わたしが一番きれいだったとき」は、美しい1編だ。長生きに未来を託すのは、少し変だけれど。

 「怒るときと許すとき」は、結婚した女性の愛情と悲しみと決意を描いている。現今の女性首長、国家元首の時代を先取りしたようだ。

Photo「フリー素材タウン」より、ひまわりの1枚。

2016年8月12日 (金)

茨木のり子「対話」

Cimg8964 花神社「茨木のり子全詩集」(2013年・2刷)より、第1詩集「対話」を読みおえる。

 全詩集の購入は、今年2月27日の記事(←リンクしてある)にアップした。購入に至る経過を書いたので、是非読んでいただきたい。

 「対話」は、1955年、不知火社・刊。

 彼女は1926年、医師の長女として生まれ、19歳の時に敗戦、23歳で医師と結婚。

 24歳頃に「詩学研究会」に投稿を始め、1953年(27歳頃)に詩誌「櫂」創刊に参加。第1詩集の発行に続く。

 「根府川の海」では、動員時代への哀憐と反発心を描く。

 「ひそかに」では、「ついに/永遠の一片をも掠め得なかった民族よ」と、帰還兵を嘆くけれども、戦後文学の隆盛を、否定する気持ちがあったのだろうか。

 「或る日の詩」「小さな渦巻」が、詩作を語るに至る作品なのは、初期過ぎて危ぶむ。

2016年6月24日 (金)

kindle版「立原道造詩集」4読

 Amazonよりダウンロードした、kindle版「立原道造詩集」を、タブレットで4読しおえた。

 同・3読は、今年1月31日の記事(←リンクしてある)にアップした。

 今回に読んだ中では、心理的抵抗より心理的敗北感のある作品に惹かれた。公式的に区切ってはいけないけれども。

 青年の純粋な心には、時代の影が鮮やかなのだ。

 彼は、肺結核を自覚し、早い死を予感していたような所がある。

Photo「フリー素材タウン」より、蓮の1枚。

2016年6月 9日 (木)

川村信治「幸福の擁護」

Cimg8871 先日、県内にお住まいの詩人・川村信治さんより、詩集「幸福の擁護」を頂いた。

 直近の詩集として、2015年2月2日の記事(←リンクしてある)で紹介した小詩集、「百年の旅」がある。

 2016年4月、能登印刷出版部・刊。

 127編を、1編見開き2ページで収める。

 ほとんどすべての詩が、1連4行、4連を重ねる16行で1編であり、他はバリエーションである。西洋の詩に範を採っているだろう。

 苦難はあっただろうけれど、順調な生を送って、老年に入ろうとする詩人の内外をおもに描いている。

 甥を送り、母の看護と看取りがあり、姉を送るなど、身近な死があり、寄り添う夫婦像がある。

 豊かな自然に恵まれた生活があり、後期に反原発の政治にも関わって行く。

 各編には日付が付され、2002年3月31日より2015年12月に至るが、この詩集の上梓により、彼はこの詩型より脱するとしている。

 詩「不完全なるもの」4連より、最後の連を引いて、謝意としたい。


美は不完全の上にあり

物語は愚かさを語り

愛は互いの不完全さに触れあう

いとおしいこの生

 

 

2016年5月 2日 (月)

「トラークル全集 Ⅵ 遺稿」(3)

 青土社「トラークル全集」(1987年・刊)より、第Ⅵ章遺稿の第3節「一九一二年―一九一四年」を紹介する。トラークルの25歳~27歳(没年)までの遺稿である。

 第2節「一九〇九年―一九一二年」は、先の4月13日の記事(←リンクしてある。訂正あり)にアップした。

 この第3節(章、節の呼び方は、僕の付けたもの)には、異稿を含め53編の詩を収める。

 「(なんと暗いのだ、春の夜の雨の歌は)」を初め、ネガティヴな詩の多い中、「妹の庭 第二稿」のように優しい詩もある。

 「(青い夜は ぼくたちの額の上に 優しく現れた)」のように、1編の内に悲嘆から救済への転調を示す作品もある。アルコール・薬物への依存の故か、若さの故か、僕にはわからない。

 このあとの、「『詩集』『夢の中のセバスチャン』他 異稿」は、省こうと思う。発表稿と異稿を比較研究するいとまは、僕にない。

Photo 「フリー素材タウン」より、チューリップの1枚。

2016年4月27日 (水)

「シュメール神話集成」(7)

 ちくま学芸文庫「シュメール神話集成」(2015年・刊)より(7)、7回めの紹介をする。

 同(6)「ウルの滅亡哀歌」の紹介は、先の4月18日付け記事(←リンクしてある)にアップした。

 今回、僕が読みおえたのは、「イナンナ女神の歌」と、「ババ女神讃歌」の2編である。

 イナンナは、太陽神・ウトゥの妹とされ、この編では戦の女神とされる。これまでに何度か神話に現れたが、神としての立場が今一つわからない。イナンナ女神讃歌であるが、夫・アマウシュムガルアンナ(=ドゥムジ)の讃歌の部分が多くてユーモラスである。

 「ババ女神讃歌」のババは、地母神である。農業(牧畜を含む)の神として崇められるが、劇的な要素に欠けるようだ。

Photo 「フリー素材タウン」より、チューリップの1枚。

2016年4月13日 (水)

「トラークル全集 Ⅵ 遺稿」(2)

 青土社「トラークル全集」(1987年・刊)の第Ⅵ章「遺稿」より、第2節「詩 一九〇九年―一九一二年」を読みおえる。

 第1節に当たる「一九〇九年集」は、先の3月10日の記事(←リンクしてある)で紹介した。

 第2節(章、節、という呼び方は、自分のつけたものである)には、35編の詩を収める。トラークルは1887年生まれなので、12歳頃~15歳22歳~25歳頃の作品である。

 1897年に入学したギムナジウムで既に、彼は煙草、酒、更に麻酔剤に手をつけ始めたとされる。

 この節の最後に置かれた「十二月のソネット 第二稿」の終連は静謐であり、以下に引く。


少年が、おずおずと 一人の女の所へ走っていく。

尼僧がひとり 暗がりで 優しく翳って 蒼ざめていく。

葉を落した樹が 眠る者の番をする。

Photo_5 フリー素材サイト「Pixabay」より、花水木の1枚。

2016年3月26日 (土)

「アンソロジー2015 山吹文庫」

Cimg8776 県内の詩人、K・ひろさんより、「アンソロジー2015 山吹文庫」を頂いた。

 2016年2月・刊。13名・13編の詩を収める。

 川上明日夫さんが指導する詩塾「山吹文庫」の、研鑚をまとめた詩集。

 内容ではない気掛かりがあり、アップが遅くなった。

 福井県で唯一・芸術派の詩誌「木立ち」代表の川上さんの指導らしく、レトリック一杯の詩群である。

 中でもT・百合子さんの「茶々とねね」が興深かった。猫の視点で、生活を匂わせつつ、結末はシュールだった。

 初めて頂いた詩集なので、毎年に発行されているアンソロジーかは、判らない。

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