田久保英夫「水中花」
集英社文庫、昭和55年2刷。
この文庫本には、「水中花」「犬の関係」「冬の陰画」「蝕の光景」の、4つの短編小説を収める。
巻頭の「水中花」は、兵士経験(それも敗兵である)のある兄と、戦後派の「私」との軋轢を振り返りながら、死の床の兄を看取る物語である。
大人になった兄弟には、幼年時の親しみが引っ込み、世間的な競争があるだろう。
しかも経験的に世代差があれば、なおさらのこと。
「蝕の光景」は、敗戦後に戦時教育の責任をとって学園長を辞任した父、学園民主化運動のなかで学園長を辞任した母、性的にはだらしないが企業内で有能な弟、性的な機会で自制する兄(主人公)の、一見上流な家族の、危ういバランスを描いている。
田久保英夫の小説は、古本界にあるけれど、文庫化されたものが少なくて困る。
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