三國玲子「晨の雪」
短歌新聞社「三國玲子全歌集」より、5番めの歌集、「晨の雪」を読みおえる。
原著は、1983年、不識書院・刊。500首。
これらの歌の創られた時期、彼女は生活的には平安だったと思われる。
しかし周囲の大事な人々の逝いた時期でもあった。
父、姑、義兄、職場で深くかかわり合ってきた人々。そして短歌の師の鹿児島寿蔵。
歌人は挽歌を創って、彼我の心を鎮めるものだが、詠いきれなかった、泣ききれなかった部分が、彼女の心にボディブローのように効いてきて、晩年の病気、自死という結末に至ったのだろうか。
以下に6首を引く。
はつかにも蒲の絮飛ぶ日おもてに老いたるふたり黙して憩ふ
矜りかに孤立しをれとわが額(ぬか)に触れしは誰ぞ雪のあかつき
なりゆきをしかと見据ゑよ慌(あわ)つなといふのみの夫が今の支へぞ
白檀の印を刻みてたまひしは余生を測る父のこころか
吐きし血は黒く凝りぬ何の科(とが)ありてか姑のかくは苦しむ
ちちのみの父の畢(をは)りのひとひらを拾はむと待つ白き燈の下
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