田谷鋭「母恋」
1978年、白玉書房・刊。718首。
箱、宮柊二・題簽、本体にパラフィン紙カバー。
田谷鋭氏(1917~)は、生まれて3年で父を失い、8年で母を失った。
「香蘭」「多磨」を経て、1953年の「コスモス」創刊に参加。
1958年「乳鏡」で第2回「現代歌人賞」、1973年「水晶の座」で第8回「迢空賞」第1回「日本歌人クラブ賞」、それにこの「母恋」で1979年の第30回「読売文学賞」を、それぞれ受賞した。
この歌集に「うち深く恚(いか)るのみなるあけくれを」とあるが、作歌としては「ひそけく・しづか・さやさやし」等の語彙を用いるなど、寂光の境地を目指したようだ。
以下に6首を引く。
帰らざる子のため荒るるわが心歌読みさして忽ちに飽く
山口の駅舎静けく朝空におびただしくも舞ふ燕あり
青年の一つ力におもおもと大き筏はいま橋くぐる
寂しさもわが餌食なれ雨の日の植物園の木暗(こぐれ)ゆきつつ
はじめより知らざる父とそのみ面(おも)忘れし母とわが胸に生く
雨を待つ東日本と思ふにぞ吾妻は嘆く青ものの値を
正字を略字に替えてある。
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