田中小実昌「自動巻時計の一日」
河出文庫、2004年・刊。
彼の短篇でない小説を、僕は初めて読んだ。あるサラリーマン「おれ」の一日を述べる構成で、苦手な(?)長編(文庫本で233ページ)が可能になったのだろう。
主人公は、1種の「ゆるキャラ」で、妻にはバカにされている。勤務地の米軍基地・化学研究所では、怪しげな日本人、米軍属が、高尚でないドラマを繰り広げる。
その中で、主人公が、時間を盗むようにして英語の小説を翻訳している点が、ただ者ではない。田中小実昌自身が、底辺の職を転々としながら、翻訳から創作へ進み、「直木賞」「谷崎潤一郎賞」を受賞するまでに活躍するところと、重ね合わせて読むと、この小説にも救いがある。
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