松田幸「春雷」
東京都に在住の歌人、松田幸(まつだ さち)さんの第2歌集、「春雷」を読みおえる。
2003年、丸善出版サービスセンター・刊、非売品。
1ページ2首、214ページ、総389首。
この歌集には、彼女の経歴、所属歌誌などは、記されていない。
夫を亡くして年経た彼女は、海外旅行、音楽会、美術館めぐりなど、楽しみながらも、心に不安があるようだ。
この歌集の作品の特色は、目の前にないものと現実を絡めて、心情を表現している所にあるだろう。小島ゆかりさんの短歌にあるような、シュールなところはない。
読み進めながら付箋を貼った作品より、5首を以下に引く。
ひもすがら観念の野をかけめぐり母の呼ぶ声未だ聞こえず
過去なべて君にまみえむ序奏とぞ夢で告げしが誰とも知れず
襤褸もてレンズを磨くスピノザをぼろ市に見きと人に語るな
古径描く画面ゆきかふ勁き線わが生き様にこの一線が欲し
手を振りて去りゆく君の幻よこの世の辻にかなかなの啼く
コメント