川井恭子「郁子の実」
平成15年、短歌新聞社・刊。
著者は、1935年生れ、島根県・在住、「湖笛会」「未来」会員。
題材は、沖縄で戦死した父、従事する農林業、母や兄の死、旅行などして絵を描く夫に付き添いみずからも絵を描く生活、などである。
詠風は穏やかで、人柄と生活を偲ばせる。
以下に、付箋を貼った6首を引く。
戦いし父ののみどに届けよと持ち来し地酒を礎に注ぐ
積む雪にイーゼル立てて描く草屋櫨の熟れ実に鳥の来ており
没りてゆく日に染まりつつ白鳥のあゆめば足のまして明るし
癌告知受けたる兄が煤竹に茶杓を作る昨日も今日も
幾年を下草刈りに通いしが檜は小暗き林となりぬ
雪を描く夫に傘をさしかけて過ぐる一日よかぎろいのなか
歌集の題名は、彼女の庭に毎年生る郁子(むべ)の実より、採ったとのことである。
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