歌集「慈しむ」
2002年、短歌研究社・刊。
パラフィン紙カバー、370余首・自選。
城谷榮子(じょうや・えいこ)さんは、広島県・在住、「未来」所属。
戦中、戦後、平成の世を生き抜いて、孫を抱く身になるまでの哀楽を描いて、沁みる作品群である。
夫、姑は被爆してをり、夫婦ともに癌の手術など苦しみもあり、子供たちが就職し巣立つなどの喜びも描いて、記録だけではなく文学作品として遺るのは、尊いことだ。
以下に7首を引く。
この静寂幸せと言わん就職の叶いし子らは任地に発ちぬ
吹く風にゆだね散りゆく白萩の優しさの欲し手に受けてみぬ
日本の桜に逢えしか波のごと海に戻りゆく航海士の子
朝なあさなどなたですかと聞く姑に今日もさわやかに答えいる嫁
癌などに負けじと夫と立つ丘に芽吹き間近き木々のかがやき
姑は語り給いき被爆後の舅を戸板に載せて焼きしを
死の出撃待ちつつ浜に眺めしか黒髪島に寄する白波
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