岡井隆「五重奏のヴィオラ」
「岡井隆全歌集 Ⅲ」(思潮社、2006年・刊)の2番めの歌集、「五重奏のヴィオラ」を読みおえる。
原著は、不識書院、1986年・刊。
前の「αの星」と同時期の作を収める、と、「あとがき」や、第4巻の月報にある年譜に書かれる。主とする作品発表の場が違うのみ、と。
題名にある「五重奏」とは、彼の家庭を指すのか、とよく知らない自分は思う。
当時の新しい流れを取り入れて、今ではズッコケ気味の作品もあるようだ。それを恐れない所が、彼らしい。
以下に7首を引く。
あたたかき南を発(た)ちて関心の脚たれて行く蜂のごとしも
象といふ反時代的実在にかくも惹かれて女童(めわらは)と居り
精鋭にとりまかれたる将軍はさびしくてさびしくてならぬを
詩はむしろ暗い叛意の行列ぞをみなのともはそれを知らぬを
官僚は酷薄にして惨たりき冬日の映えを襟立てて過ぐ
平安は永遠(とは)なるすべのあらざれば今しばし黄の自転車を漕げ
つゆくさの寂しさはわが寂しさの知らぬ記号がしきりに殖えて
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