岡井隆「神の仕事場」
思潮社、2006年・刊。
2重箱、月報あり。
この巻には、「神の仕事場」より「旅のあとさき、詩歌のあれこれ」に至る、10歌集を収める。
月報には、詩人・評論家の北川透との対談「詩歌の未来へ」、大辻隆弘・編「岡井隆全歌集解題」を収め、対談では歌人の個人的事情・内面を知るため、解題は彼の歌歴を概観するため、共に貴重である。
初めの歌集、「神の仕事場」を読みおえる。
原著は、1994年、砂子屋書房・刊、第15歌集。
折句、意味のないオノマトペ、( )の使用など、意識的な試みをしている。
以下に8首を引く。
みづうみに兄の波立ちしづかなる弟波(おとうとなみ)の来るをし待てり
ララ物資のやうなる愛といふ比喩も死にて半世紀経(へ)し夜の桜
月明に隅(すみ)くらぐらと見えながら何時(いつ)なにになるここの空地(あきち)は
麦飯の遠き力やわがおもひしづかに暮れて世界と違(たが)ふ
冷蔵庫にほのかに明かき鶏卵の、だまされて来(こ)し一生(ひとよ)のごとし
精神の集中をこそねがへれば見物人Aを立ち去らしめつ
二人居てなんぞ過ぎゆく尾長らの大竹群(おおたかむら)を過ぐる迅さに
噫(ああ)この外(ほか)老いたるぼくになにがある歌を算へて光を喰べて
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