岡井隆「大洪水の前の晴天」
思潮社「岡井隆全歌集」第4巻(2006年・刊)より、第18歌集「大洪水の前の晴天」を読みおえる。
原著は、1998年、砂子屋書房・刊。
実験・試みの作が潜まり、月報の「岡井隆全歌集解題」で大辻隆弘は、「ニューウェーヴ志向の終焉を感じさせる歌集である。」と書いている。
作歌時期は「ウランと白鳥」に重なり、「あとがき」に「私生活は、動揺しやまぬ苦渋の中に過ぎた。」とあるとしても。
以下に8首を引く。
荷の間(あひ)に読み出せばもうとまらない近世俳句其角豪宕(がうたう)
「マッチ擦る」海はこのうみだつたんだ辺境が生み育てし修司
詩の本は売れても二阡 韮まぜて仔羊の肉焼きしバタイユ
ドイツより来(こ)ししやれかうべ手のひらに載(の)せて軽きをしばらく遊ぶ
魂をいやすため今日を用ひむか錦通りに棒鱈を見て
その辺り荒き息して立つなかれ夜の美しい訪問者 きみ
発見者の名をもて飾るあはれさの花冷えの夜の、ばうと彗星
まだすこし貸し借りのある間柄とほく視線を逸らしあふなり
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