岡井隆「ヴォツェック/海と陸」
思潮社「岡井隆全歌集」(全4巻)の第Ⅳ巻(2006年・刊)より、彼の第19歌集「ヴォツェック/海と陸」を読みおえる。
原著は、1999年、ながらみ書房・刊。
その歌作の時期に、自作短歌の朗読を始め、その影響が詠みぶりにあるとされる。
個人的には大きな事もあったようだが、詠みぶりはのびやかだと感じられる。
以下に8首を引く。
しどろもどろの挨拶はまあしかたないウルウルウラム、うるうるうらむ
アトリエにゆきていひたる事を恥づむかし一心に馬鹿なりしころ
それほどでない才質のかなしさを紅葉のやうに見せて去りゆく
もう二度と俺はここへは来ぬだらうさういふ場所が増ゆれしづかに
そばにきてピアソラの話などしてるわが朗読のどきどき近く
その母とわれは別れむそれと知りて三人子(みたりご)ひしとかたまれる見ゆ
実にもう嫌だと思(も)ふが嫌だとは言はない雨の、言はせない降り
海峡を喫水ふかくすぐる船のかたむくみれば我かとおもへ
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