藤原定「環」
沖積舎「藤原定全詩集」(1992年・刊、限定500部)より、5番めの詩集「環」を読みおえる。
この3月9日に、詩集「吸景」を紹介して以来である。
のびやかな比喩の作品が多い。
そんなふうに死というものも
生の変容流転にすぎないのだ
「甲斐駒のうしろから」より
上記のように輪廻や、あの世を信じられれば、老期も生きやすいのだが。
短い詩を1編、まるごと紹介する。
山にしたって
藤原定
山にしたって沈黙しているのではないだが発音できるのは二つ三つの母音ばかり
しかもオクターヴがあまりに低いので
ぼくらの耳にはききとれないが
草木はみなそれを全身できいているし
青空は見ひらいた眼でききとっている
鳥は翼をのばしきったまま
母音ばかりのフーガ旋律の上を
閑にまかせて波のりしている
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