江國香織「つめたいよるに」
江國香織(1964~)の小説集「つめたいよるに」を読みおえる。
新潮文庫、1998年9刷。
この本は、2章に別れていて、「つめたいよるに」には9編、「温かなお皿」には12編、短編小説というより、掌編小説と呼び得る作品を収める。彼女の初期作品集とも称し得る。
ファンタジー系と呼べるだろう。ただし天使も妖精も人魚も現れない。
「夏の少し前」では、裁縫の居残りをする洋子が、数瞬のうちに、憧れの涼ちゃんと夫婦になり、母親になり、祖母になり、現実に戻るのだ。夢を見たというオチではない。
またデビュー作とされる「桃子」では、修行僧・天隆(19歳)と、寺に預かった娘・桃子(7歳)が恋をし、別れさせられるのだが、天隆の頭頂から茎が伸び青い花を咲かせ、白い小鳥になった桃子が花に住み着いて5年を経ている、という怪奇的でさえある短編である。
リアリズムとは程遠い。ファンタジーにも真実がある。
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