岡部文夫「石の上の霜」
岡部文夫(1908~1990)の歌集、「石の上の霜」を読みおえる。
短歌新聞社、1977年・刊。683首。
写真は、箱の表。
岡部文夫はこののち、日本歌人クラブ賞、短歌研究賞、迢空賞、各賞受賞。
当時の彼は、福井県坂井郡(現・坂井市)に住んだ。僕の「コスモス」入会が1993年だから、彼の亡くなったあとである。
郷里の能登、福井の漁村の、厳しい環境に生きる老たちを描いて、情感がある。
以下に7首を引く。
寺ふたつ養ふに足る谷の村漆に冨みて今にゆたけし
北潟の水の寒鮒を煮むといふ聞きてゆふべを待つはたのしき
原電に潤ふ海の村といへど心けはしく荒(すさ)びゆくらし
隠すなき貧を互みに貶めて一つ入江には一つ村あり
生きるだけ生きて用なき媼らの熱き銭湯をただに楽しむ
日の長くなりしを言ひてしろたへの清き豆腐を掌(て)の上に切る
長く生きし二人の今日のよろこびに蒲生の海の皮剥を煮る
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