川辺古一「北枝」
1981年、石川書房・刊。
箱、題簽(本体の)・宮柊二、501首。
1975年(49歳)~1980年(54歳)の作品である。
氏の経歴については、第3歌集「駅家」を紹介した、このブログの2012年11月27日の記事を、参照されたい。
自然、社寺への旅行詠に氏は、平静というより沈潜した心境を見せる。
心の騒がしい僕は、畏怖さえ感じる。
以下に8首を引く。
紀三井寺急階段に息喘ぐわれを笑ひて老婆は立てり
松本の石仏群を見にゆきて三日も経つに子は帰り来ず
冷害を嘆く農夫と白河の関あといでて東へ向ふ
水槽の底に葛粉の固まるを鉄槌もちて人は割りゆく
乾きつつ白く光りて縁側に張子の馬の数頭ならぶ
弟の葬儀を見むとあつまりし少年達にキャラメル配る
七重八重石の仏にからみつき花咲かせをり定家かづらは
渓谷に秋の光の及ぶとき影のごとくに虹鱒泳ぐ
なお漢字の1部を、正字より略字に替えてある。
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