川越惠子「庭の音」
東京都にお住まいの歌人・川越惠子さんの第1歌集、「庭の音」を読みおえる。
2007年、砂子屋書房・刊。
帯。岡井隆・跋。約350首、エッセイ3編。
彼女はNHK学園短歌教室で、岡井隆の指導を受け、「未来」に入会した。
どことなくおっとりした歌風を、岡井隆は跋文で、NHK学園出身のせいのように書いている。しかし僕は、彼女が商家(拡大→衰退→安定、を経ている)の、いとはん(良家の娘の敬称、おもに京阪言葉)の性格が身についているのだと思う。
以下に7首を引く。
捨てられし一升瓶が浜風を詰め込んでゐる小坪海岸
生前にしかと見ざりし父の目を遺影に寄りてしみじみと見る
ノースリーブの肩を過ぎゆく今朝の風細き芯ある風と思はむ
スプリンクラーの水の翼はのびやかにアンダルシアの野に回転す
うす暗き楠の大樹の下に待つ思ひ出し笑ひ呑み込みながら
おほどかに風車の廻るロンドンに我等着きたり夏至の夕べに
柚子の香の残る右手を胸の前で小さく振つて母を見送る
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