中田道子「未完のカンバス」
角川書店、2010年・刊。
帯、村山美恵子・跋、あとがき。
彼女(大阪府・在住)はヨガ教師として生計を立て、幼い頃から好きだった絵を続け、「水甕」に短歌を寄せて心の安定を得る。
その鼎立は成功したらしく、母を看取って送り、息子・娘を巣立たせた。歌に「別れたる夫も」の語がある。
海外旅行にも何度か出掛け、旅行詠を残している。
以下に7首を引く。
足らぬものいつも捜しているように未完のカンバス幾つも並ぶ
シャッターを上げてひかりを入るるとき絵がいっせいに息づき始む
暮れなずむ梅田ビル街 中世のだまし絵の中まぎれ込みゆく
おはようの「う」の音高き秋の朝ヨーガ教室軽やかである
春に子は雲雀とならんいそいそと巣立ちの前の羽づくろいして
デイサービスに向かえる母はいそいそと青年の腕に護られ歩む
われの絵の下に並べる娘の花器を見せたき母はもう今はなく
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