近藤芳美「未明」
岩波書店「近藤芳美集」第5巻(2001年・刊)より、第21歌集「未明」を読みおえる。
本巻では今月1日の記事(←リンクしてある)、「メタセコイアの庭」に継ぐ。
原著は、1999年、砂子屋書房・刊。450首。
1996年、97年の2年間に、スペイン・ポルトガル、ギリシア、中国、オーストリア・イタリアへ旅し、多くの作品を得ている。また敗戦記念日の思い、社会主義国家群の崩壊を問うてもいる。
この時期の作品には、破調、助詞の省略、文法の未完結、などの詠もある。解説で佐伯裕子は、「困惑は晦渋を究め、苛立ちが調べを傷めつけてやまない。」、「詩歌は時代の苦悩をこそ負うものであり、大問題を考えて初めて日常もある、そういう姿勢を崩すことはない。」と述べている。
短歌が好まれる基に、57577の音数律の快さがあり、その快さのない作品を読むには、小さな苦痛が伴う。
以下に7首を引く。
一詩型に見し時を負う選択を逃れ得ざりし逃れざりしのみ
「はつかり」と呼ぶ白椿残雪の庭を導く妻のよろこびに
幾年か来りし旅にゴヤを訪うわきて老残の「黒き絵」の前
ファドの歌半ばを出でて明けとあらずひかりに伝う壁白き路地
エピダウロス古代劇場の夏一夜悲劇「エレクトラ」旅に遥けく
百日草咲き残りたる路分けて夕日のしまし杜甫の塚の傍
ゲトライデ街すでに賑わい行く程なきモーツァルト生家朝のまの冷え
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