柏崎驍二「百たびの雪」
岩手県に在住の歌人、柏崎驍二氏が第6歌集、「百たびの雪」を送って下さった。
2010年9月、柊書房・刊。
氏は「コスモス」選者、「棧橋」同人、「歌壇」読者歌壇選者、等。
東北の方らしい、沈痛な表情の作品が多いようだが、言葉の芸術として読むとき、言葉の調べがなめらかで美しい。
また娘さんや、庭の木に巣作る四十雀に向ける視線が、とても暖かい。
付箋を貼りながら読み進めたら、18首になった(もちろん他の作品も優れている)が、他の回とのバランスもあるので、以下に8首のみ引く。
落葉(らくえふ)の樹々あかるくて陸封魚山女(やまめ)に秋の水寒くなる
帰りゆく白鳥ありてわれら臥すうへくわうくわうと声わたりゆく
ひのくれに卵を抱ける四十雀(しじふから)を勤め終へこし娘が窺(のぞ)く
岩手山の初冠雪を見て立てる公孫樹は黄なるマントを着たり
仰向けに涅槃しにけり蝦夷蝉はすつからかんに腹を喰はれて
吹雪くなか来る人はみな頭垂れ、春の蕨(わらび)のごとく頭垂れ
こゑ遠く山鳩啼きてあさしもの消ぬべくなりつ母のいのちは
渋民を出でてかへらぬ一人ありひばの木に降りし百たびの雪
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