岡井隆「中国の世紀末」
「岡井隆全歌集 Ⅲ」(思潮社、2006年・刊)より、3番めの歌集、「中国の世紀末」を読みおえる。
原著は、1988年、六法出版社・発行。
1987年の中国旅行に取材した作品群である。
第Ⅲ巻の月報にある、荻原裕幸、石井辰彦との鼎談で、彼は「完成度を意識しなかった」「これは自由に書きました」と述べている。
そういう点はあるかも知れないが、彼独特の視点で、力感のある作品だ。
以下に8首を引く。
中国に在ればか否かゆくりなく涌き出でて日本嫌悪のこころ
かぎりなく来る自転車は伝へ聞き来しに似ながらひたひたと、国
いにしへゆ深し深しと思ひ来ぬすべてが違(ちが)ふ闇のいろさへ
大鋏(おおばさみ)、リムジン・バスの席に飽きなめらかすぎる日本語に飽く
生きて老い苦しむ人の生きざまをただに見てすぐ見てすぐるのみ
年老いし前衛歌人も時としてまなこかがやき言ふことがある
日本がはるけく怖き仕事場に見えてくる朝北京にありき
まどろめばすべての部屋に父が居てすぎゆく時と言葉かはせり
一部、ルビを省いた所がある。
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