永井陽子「モーツァルトの電話帳」
青幻舎「永井陽子全歌集」(2005年・刊)より、4番めの「モーツァルトの電話帳」を読みおえる。この全歌集は、1ページ最多5首で、とても読みやすい。
原著は、1993年、河出書房新社・刊。
180首と、エッセイ1編を収める。
この歌集のユニークさは、1首の頭を50音順に、つまり電話帳と同じ構成の、配列にしている事である。もちろん意識して詠んだのであろう。
ただし、言葉派≒芸術派的な作品のみではなく、ほぼ同じ時期に老母の介護という、リアル派≒生活派的な作品も創っていて、2年後の歌集「てまり唄」となる。
「モーツァルトの電話帳」より、6首を引く。
秋の陽をかばんに詰めて帰り来るをとこひとりと暮らすもよけれ
風がリラを鳴らす太古のゆふぐれをおもひて地下の通路抜けたり
縦にむすび横にむすびてまたほどけ雲の遊戯は果てもなかりき
にはとりは昔はもっと小さかったよそして気ままに空を飛んだよ
窓に息吹きかけ月や星や木を描きつつこよひ老いゆくうさぎ
嗤(わら)ひをるあの白雲め天と地のつっかひ棒をはづしてしまへ
君子蘭の花と思われる。
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