春日井建「行け帰ることなく」
砂子屋書房「春日井建全歌集」(2010年・刊)より、2番めの「行け帰ることなく」を読みおえる。全歌集は1ページ8首組で、読みやすい。
原著は、1970年、深夜叢書社・刊。
以下は、解題による。「三十一歳の夏に刊行された第二歌集『行け帰ることなく』は、ニ十歳から二十五歳までの作品三百五十首と、第一歌集『未青年』を併せ、全歌集として発表された」。
彼の「歌の別れ」の表明だった。
彼は異端の性を生きながら、以後、テレビ・ラジオ・舞台の仕事を多く手掛けるようになる。
以下に6首を引く。
身をすさりわれに悪罵を吐く女ひいなおろしの舞ひすすみつつ
鬼火たくわれ見つつ遂に無言にて現世(うつしよ)を母は過ぎて行きけり
わがうちの追憶街に燈(ひ)はともりポオの少女妻仄かに歩む
石を挽く白きてのひら墓つくるその寂しさに涸れて巨きく
山麓の町にそだてば草食獣のやさしく怯えやすき眼をもつ
老いらくの父母の途方にくれし手が追ひくるごときこの雪しぐれ
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