春日井建「井泉」
砂子屋書房「春日井建全歌集」より、第8歌集「井泉」を読みおえる。
原著は、2002年、砂子屋書房・刊。370首。
1999年(61歳)、咽頭癌が見つけられ、入院、いったん退院する。2000年には、癌が再発、余命1年と告げられる。
癌の闘病短歌というと、死を覚悟した者の、この世へ残すメッセージという思い込みが僕にある。ジャンルは違うが、作家・高見順の詩集「死の淵より」がそうだった。
この歌集では、ラジウム岩盤浴の「雪とラヂウム」26首、放射線湯浴の「井泉」50首等があるが、叙景歌もあるなど、「歌空間を顕在化していく」歌人の自覚があっただろう。
巻末に、歌人であった母の死を悼む、「朱唇」26首が載る。
以下に7首を引く。
扁桃(あーもんど)ふくらむのどかさしあたり襟巻をして春雪を浴ぶ
天使的午睡と言はむのどを通るもの少なければ疲れ易くて
書きあまし見のこせしまま純青(ひたさを)に過ぎなむ時を肯はむとす
枇杷の葉をそれぞれ患(や)める個所にあて岩に伏しをり遊びのごとし
湯に首を打たせてラドン吸ひながら屋根の雪おろす人を見てゐつ
眠る前に母が蔵(しま)ふはわたくしの耳とぞ言へる二つの莟
うなだれゐし薔薇(さうび)二輪を水切りしいくばくもなく逝きたり母は
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