鈴江幸太郎「夜の岬」
初音書房「鈴江幸太郎全歌集」(1981年・刊)より、10番めの歌集、「夜の岬」を読みおえる。
先の7月30日の記事(←リンクしてある)で紹介した、「山懐」に継ぐ歌集である。
原著は、初音書房、1969年・刊。560首。
歌人67歳~69歳の、3年間の作品。
「後記」で著者は、「命のあるかぎりまだまだ欲を出して、(中略)よい歌を作りたいものであります」と意欲的である。
住友の修史に関わる仕事をしながら、歌会、吟行(宿泊の場合を含む)、追悼などの作品が多い。嘆きも喜びも淡くなったのだろうか。
以下に6首を引く。
安きさまに富士のかかれる熟田(うれた)のはて暑き光に送りたまひき
宿の燈(ひ)の照らす草踏み入りてゆく闇のはたては灘の上の崖
わが賴む君の命の立ちかへり出雲のみ湯にすこしづつ癒ゆ
この島も食を賴みて船を待つ靑葉うつくしく近づきくれば
草の上に高き夕菅(ゆふすげ)すでにして黄にひらきたり帰りか行かむ
ふたたびを君にしたがふ面河(おもがう)のこよひも雨の木群(こむら)にひびく
というより、渓流と呼ぶべきだろう。
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