久瀬昭雄「蒼茫の海」
久瀬昭雄(くぜ・あきお)さんの第1歌集、「蒼茫の海」を読みおえる。
2010年、ながらみ書房・刊。
桜井登世子・跋・帯文。
彼は1994年に「未来」入会、歌集発行の当時は桜井登世子の選を受けていた。
彼の短歌には、豪傑風のところがあって、僕は少し引く。
ただし彼は、企業では豪傑であったので、企業戦士・モーレツ社員的に働いたらしく、「あとがき」にも「戦後復興で(中略)、連日遅くまで猛烈に働いた」と述べている。
この歌集・発行時には83歳を迎えているので、もう力まなくてもよいのではないか。
以下に7首を引く。
南溟のサイパンに果てしわが兄の遺しし書物『哲学以前』
薄れゆく記憶のなかに母は在ます氷片口にただ臥しましき
「永保寺の紅葉へ行こう」娘が誘う術後のわれの鬱晴らさんと
アイポッド胸にぶらさげプッチーニを聴きつつ登るリハビリの隥(さか)
祝うほど稀にあらざる七十歳がウメバチソウを探しあてたり
衰えし手足で括る本の山立ち読みはやめよ日暮れは近い
今はただ凪も嵐も夢のなか白帆返して青潮をゆく
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