斎藤史「渉りかゆかむ」
大和書房「斎藤史全歌集」(1998年5刷)より、第9歌集「渉りかゆかむ」を読みおえる。
1月7日の記事、「昭和51年作品」(←リンクしてある)に継ぐ。
原著は、1985年、不識書院・刊。483首。
翌1986年、同・歌集により「読売文学賞」受賞。
1979年には母が死去し、夫と母を看取って送った彼女は、一人暮らしとなった。「あとがき」で、「いささかは人間の責任を果たした思いがあつた」と述べている。その身軽さから、関わりのある北海道、シンガポール、マレーシアのジョホール・バル、中国、台湾などを訪れ、作歌もあった。
以下に6首を引く。
月見草あしたにみれば紅(こう)をおび廃(すた)れしのちに何の華やぐ
夜も昼も区別のつかぬ母と棲み身のうらおもて失ひにける
ふり向けばすれちがひたる人の背の無縁の寒さひびく真昼間
ひとついのち落着をせしこの冬の日向しばらく明き陽の澄む
不しあはせともなく生きてうかうかと春花ひらくをことによろこぶ
遠くより見れば遊園廃址めく さむき風ゆゑ寒茜ゆゑ
注:1部、旧漢字を新漢字に替えた所があります。
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