松山慎一「寂しさの市」
2011年9月、青磁社・刊。
2002年春~2006年末の、405首を収める。新かな遣い、古典文法。
彼は1926年・生、2001年にある病院を退職、郷里の京都の病院に非常勤で勤める事になった。「塔」同人。
題名の「寂しさの市」について、「あとがき」で「私にとって駅は「寂しさの市」のように思われた、…」と述べている。
字余りの歌が、やや多いようだ。植物を詠んで優れた歌が多い。
3・11前の歌なので、それ以後の危機感はない。
以下に6首を引く。
十字路に向い合い立つ数本の繊きこぶしの花ひらきそむ
秋おそく紫となりオリーヴの実の十顆あり植えて二とせ
ユーロ紙幣より肖像は消ゆ夫々の国を拠り処(ど)とせぬ思想ある
働きつつスノーボードを続けいし若きナースの不意の訃を聞く
眠りさむる頃に過ぎゆく夏の夜の雨の続きぬ秋近きらし
ハモニカのように灯して列車過ぐ気温落ちたる森の薄暮を
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