古井由吉「山躁賦」
集英社文庫、1987年・初版。
この本の購入は、このブログの2012年3月4日の記事に載っている。
彼の小説の読了は、2012年8月13日の記事(←リンクしてある)、「行隠れ」以来である。
「山躁賦」は、関西方面(四国を含む)の山頂や谷あいの神社仏閣旧跡をめぐる12話より成る。
もちろん観光記ではなく、「いかめ坊」という僧兵や、裸木の桜に花を見る、といった幻想に満ちている。
この本の初刊が1982年4月であり、ソ連崩壊・東欧革命どころか、バブル景気の始まり(1986年とされる)以前であり、失われた20年を経た現在とは、社会も人の心情も異なる。
彼の晦渋な文体は、その時代に、自己の真実を表現するための、方策だったであろう。ムジル、ブロッホなどの翻訳から出発して、題材に日本回帰の相は見えるけれども、没入はしていない。
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