近藤芳美「聖夜の列」
岩波書店「近藤芳美集」第3巻(2000年・刊)より、第13歌集「聖夜の列」を読みおえる。
先の9月5日の記事(←リンクしてある)、「樹々のしぐれ」に継ぐ。
原著は、1982年、蒼土舎・刊。598首。
戦後進歩派の歌人とみられたが、外国の市民社会主義運動や新左翼活動に冷淡になる事(選歌は除いて)によって、偶像的支持は失ったようである。
彼の短歌は読みにくい。例を挙げると本書306ページの、「街は朝のねむりにいしだたみの坂つたういずくかあと残るエトルリアの門」。5句のうち定型は3句め1つのみである。
彼はまた「無名者」という事を書くけれども、各人には名前があり、ささやかでも家庭あるいは職場・社会に立場がある。エリート主義の傲りではなかろうか。
以下に6首を引く。
「有事立法」阻止の或る夜の小さきつどい心怖れ来て何告げむため
戦場の死を逃れ生きたちまちに過ぎたるものも何に言うこと
聖堂あり復活祭の灯を置くを岸ひたひたと運河に沈む ヴェネツィア
求め来し銀のいるかの指輪してねむれば妻よまた二人なる
ゆえ知らぬ嗚咽は過ぎてすがしきを帰り眠らむ父のあらぬ部屋
彼らみな近藤先生と呼びいたわる北京の幾日心語らねど
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