岡井隆「暮れてゆくバッハ」
思潮社の「岡井隆全歌集」全4巻を、版こそ違え、2012年3月29日の記事(←リンクしてある)で紹介した「旅のあとさき、詩歌のあれこれ」で読みおえたあと、僕は岡井隆の歌集を読まなかった。
今回、彼の最新歌集「暮れてゆくバッハ」を買えて(今月12日の記事、「届いた3冊」で報告)、読みおえた。
大柄な、諧謔味を交えた歌風は健在だが、時に軽みに至るようだ。
散文「亡き弟の霊と対話しつつ過ぎた、手術の前と後」、「松本健一さんの霊に呼びかける」等、「付録」3編、には触れない。
また水彩画集編「花と葉と実の絵に添へて」は、手本の木下杢太郎「百花譜」に比べて(僕は岩波文庫「新編百花譜百選」を持っており、少し見た)、はっきり言って下手である。添えた短歌などの筆跡は立派だけれども。
2つの折り句(アクロスティック)よりは引かない。
以下に7首を引く。
遺言(ゐごん)状つくるため来し帰り路(ぢ)にあしたの朝の食材えらぶ
注釈の橋を渡して本文を渉(わた)らうとする秋暑き日に
ヨハン・セバスチャン・バッハの小川暮れゆきて水の響きの高まるころだ
わが知らぬその声はややたかぶりて川口美根子の逝きたるを告ぐ
オレンジの色の囚衣の映像を折ふしに見て書きつづく 詩を!
固有名詞の出て来ない日はせめてもつとでつかいものの名よ出よと思ふ
憎しみの作る表現を凍結し夜半ふかく解凍するのが常だ
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