「梅崎春生全集」第2巻(2)
沖積舎「梅崎春生全集」第2巻(1984年・刊)より、2回めの紹介をする。
同(1)は、先の5月20日の記事(←リンクしてある)にアップした。
今回、僕が読んだのは、「紐」、「蜩」、「行路」の3編であり、戦後に発表された非戦記もの・非従軍ものの初めである。
「紐」は戦時下の留置所で、贈賄罪を問われる鬼頭と、同房の確信政治犯・六車の話である。鬼頭に絹の紐が与えられ、自殺を示唆される。鬼頭と六車が共に、死を選ぼうとして、迷っている所で終わる。執筆当時、今とは違う世相状況があったのか。
「蜩」は、作家が出版社に3度めの前借りをしようとするが、首尾が悪く、身重の妻に出向かせる話である。郷里の母と弟、他の出版社の者も絡んで、心理的にねじれた状況をよく描写している。ただし単なる私小説では、ないだろう。
「行路」は、少女が男と戦争に苦しめられ、地下道に寝泊まりまでしながら、小さな鰻屋を営んで行くまで、おりおりに関わった「私」の視点で描く。戦後風ながら、危うさも作者は見抜いている。
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