斎藤史「密閉部落」
大和書房「斎藤史全歌集」(1998年・5刷)より、第6歌集「密閉部落」を読みおえる。
原著は、1959年、四季書房・刊。1953年~1959年の作品、531首。
この前の第5歌集「うたのゆくへ」は、先の10月26日の記事(←リンクしてある)で紹介している。
1953年7月、バックボーンでもあったらしい父が亡くなり、史の心境に変化があったようだ。また長野県に来てより、14年が経ち、東京へ戻る事なく、住み続ける思いもあるようだ。
題名作の「密閉部落」はフィクションの、3章にわたる大連作である。平家落人が山中に住みつき、貧と近親結婚から衰え、ダム湖の底になる事となって、離散してゆくというストーリーである。
この大連作は、全部を読む必要があり、引用歌には引いていない。
以下に7首を引く。
内側にもろく崩れてゆくわれに今日の余光は黄色すぎたり
サヨナラとかきたるあとの指文字はほとほと読めずその掌(て)の上に(七月 父死す)
酔ひみだれやがてうつ伏す肩のあたり埃の泛(う)きしジャンパーを着て
ゆがみたる花火たちまち拭ふとも無傷の空となる事はなし
もろき平和なりといたはれ 黄の麹密に育てて冬の味噌蔵
餅の黴(かび)こそげつつ居り食ひこみし黄なる赤なるをことに憎みて
或日わが陰画(ネガ)の山野を行くために時間借りして乗るロシナンテ
(注:1部、旧漢字を新漢字に替えた所があります)。
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