近藤芳美「埃吹く街」
岩波書店「近藤芳美集」第1巻(2000年・刊)より、第2歌集「埃吹く街」を読みおえる。
今月14日の記事(←リンクしてある)、「吾ら兵なりし日に」(後に刊行された中間の歌集)に継ぐ。
原著は、1948年、草木社・刊。
幾つか挙げたい事がある。
彼は知識人として、懐疑を持ちながら従軍したのであって、ファナティックに突き進んだ農工民(大衆)とは違うという意識があり、大衆を戦後も信頼できなかったのだろう。
戦後も手に職があり(建築設計家)、従順な妻があり、(短歌を創作していた事を含め)恵まれた立場にあった。
また技術者(技術は、科学の現実への応用だろう)として、科学への(社会科学などではない)信頼があったのではないか。
右へも左へも突っ走る事なく、なお誠実に生きようとした人だったという印象だ。
以下に7首を引く。
墨入れて心落着く昼すぎは椅子も机も白く光りぬ
あたたかき霧立つ夕べ菜園の杭を打たむとたづさはり出づ
乗りこみし復員兵の一団はつつましくして上野に下りぬ
生き行くは楽しと歌ひ去りながら幕下りたれば湧く涙かも
日本にはすでに用無き戦闘機低くすわりて草に埋るる
狭き貧しき国にて共に苦しまむ沁む思ひあり朝鮮の記事
誠実に生きむとしたる狭き四囲技術家なれば生きる道ありき
フリー素材サイト「Pixabay」より、白梅の1枚。
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