近藤芳美「遠く夏めぐりて」
岩波書店「近藤芳美集」全10巻の第3巻に入り(写真は箱の表)、初めの第9歌集「遠く夏めぐりて」を読みおえる。
今月4日の記事(←リンクしてある)、「黒豹」に継ぐ。
原著は、1974年、昭森社・刊。628首。
彼は傍観者などと非難されつつ、短歌を自分を頼って来る者を、守って来た。そこには無名者と共にあって、その声の短歌表現を掬い上げようという、基本姿勢を堅持した。
「幻影」の章の1首「つきつめて叫ぶ声々はまぎれねばはるか吾ら見しファシズム前夜」は、リーダーがアジテーションする全共闘運動を、ファシズム的だと言うのではなく、ファシズムの戦前にそのような事態があった、と自身の経験から述べているだけだろう。
以下に7首を引く。
機動隊来るまでを待つバリケード一夜少年のかげ群るるのみ
汝ひとりに女を目守(まも)る壮年も過ぎむと言わば寂しむかただ
テレックス打てる友ありいつか来て吾が枕べにワイン置き去る(デュッセルドルフ逗留)
倖せの足る日のはての老いの意味ベンチを去らぬ影とまじれば(ストックホルム)
茫々と雪降りしずむ森をへだて東ベルリンの空染むる色か(ベルリン再訪)
思想の位置あかせと遠き声ひとつ眠らむ深きねむり求めて
声に出でて呼ぶべきいずへ戦場の死をみな遠く生きつげる日に
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