2003年、砂子屋書房・刊。
彼女は「未来」他・所属。
もう余り力まなくても良いのではないか。夫を見送り、子供たちを巣立たせて、女性の一人暮しには、困難もあるだろうが。
また短歌では、比喩などのレトリックを多用して、芸術性を高めようとしなくても、良いのではないか。芸術性を求めるなら、詩を書けば良い。
短歌は個人の真実を表現して、救われてあれば良い。また救われるからといって、歌人もあまり無理をしてはいけない。
お説教めいた事を書ける立場ではないが。
以下に7首を引く。
海に向くベランダに椅子持ち出して遠き自分を見つめてゐたり
うつしみを抜け出しものか逃げ水の光となりてわれを呼ぶなり
歳末のスクランブル交差点 時代頒ちていとしき人人
炎昼の花びらうすき立葵わがトルソーを支ふ手あれな
切り捨てて君は歩めた 葉がくれにかろく鳴りゐる空蟬の殻
君といふ存在遠きかなしみに昨日と違ふ月の昇りぬ
子といへどここは私のサンクチュアリ汝(な)がスニーカー踏み入るなかれ
島根県にお住まいの歌人・安部洋子さんの第4歌集「西方の湖」を読みおえる。
2011年11月、砂子屋書房・刊。
彼女は、「湖笛」「未来」会員。
花山多佳子、池本一郎、山田富士郎、3氏の評を収めた栞を付す。
周囲に人間の気配が薄い気がする。
独居しているらしい事、街にも知る人の少なくなった事、それらではなく、本人の関心の向かい方に因るのだろう。
「西方の湖」こと、近く住む宍道湖は、水の匂いが感じられるまで、深く描かれているのに。
以下に6首を引く。
矛盾してると呟きながらゆく岸辺北西の風に波しぶき上がる。
バス停に話しかけくる一人の言葉を散らす三月の雪
遠まわりして来しことも幸とせむ夕ぐれの湖透き通るまで
裏切りを責めたることもはるかなり今年の花びら踏みてゆくなり
真闇短きバンフの夜に流星のしたたりに合ふひとつまたひとつ
棕櫚の葉を吹きぬけてゆく風の音あの世の夫がもの申すらし
総合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)2014年2月号を読みおえる。
表紙が、昨年はイラストでシンプルだったのが、今年は花の写真を大きく編集したものを採っているようだ。
巻頭20首4氏の内、小池光「道」より「足の爪赤く塗りたる姉むすめ青く塗りたる妹むすめ嗚呼」では、現代短歌文庫3冊に出てきた、娘さんの近況を聞くようだ。
第25回「歌壇賞」受賞の佐伯紺「あしたのこと」30首には、僕のわからない歌がある。世が変わったのか、僕が古いのか。
米川千嘉子「馬島」50首は、異論もあるが、力作である。
特別企画「スイーツの歌―おいしい短歌」は、巻頭エッセイ、7氏の選出歌とエッセイ、共に楽しく読んだ。どちらかと言えば僕は甘党だから。
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