« 2016年2月 | メイン | 2016年4月 »

2016年3月の32件の記事

2016年3月12日 (土)

近藤芳美「未明」

 岩波書店「近藤芳美集」第5巻(2001年・刊)より、第21歌集「未明」を読みおえる。

 本巻では今月1日の記事(←リンクしてある)、「メタセコイアの庭」に継ぐ。

 原著は、1999年、砂子屋書房・刊。450首。

 1996年、97年の2年間に、スペイン・ポルトガル、ギリシア、中国、オーストリア・イタリアへ旅し、多くの作品を得ている。また敗戦記念日の思い、社会主義国家群の崩壊を問うてもいる。

 この時期の作品には、破調、助詞の省略、文法の未完結、などの詠もある。解説で佐伯裕子は、「困惑は晦渋を究め、苛立ちが調べを傷めつけてやまない。」、「詩歌は時代の苦悩をこそ負うものであり、大問題を考えて初めて日常もある、そういう姿勢を崩すことはない。」と述べている。

 短歌が好まれる基に、57577の音数律の快さがあり、その快さのない作品を読むには、小さな苦痛が伴う。

 以下に7首を引く。

一詩型に見し時を負う選択を逃れ得ざりし逃れざりしのみ

「はつかり」と呼ぶ白椿残雪の庭を導く妻のよろこびに

幾年か来りし旅にゴヤを訪うわきて老残の「黒き絵」の前

ファドの歌半ばを出でて明けとあらずひかりに伝う壁白き路地

エピダウロス古代劇場の夏一夜悲劇「エレクトラ」旅に遥けく

百日草咲き残りたる路分けて夕日のしまし杜甫の塚の傍

ゲトライデ街すでに賑わい行く程なきモーツァルト生家朝のまの冷え

Photo「フリー素材タウン」より、椿の1枚。

2016年3月11日 (金)

「シュメール神話集成」(2)

 ちくま学芸文庫「シュメール神話集成」より、「洪水伝説」を読みおえる。

 1昨日の、同(1)に継ぐ。

 「洪水伝説」の粘土板原文は、不完全である。数えられる260行の内、4個所の計154行の破損があり、261行以下も破損している。

 残る106行にも破損個所が多く、解説、39個の訳注、推定に拠る補足、翻訳等を施している。読者として、欲求不満の残る1編である。

 「旧約聖書」の「ノアの方舟」の原型とされる。大嵐と大洪水も、チグリス川・ユーフラテス川の流域のシュメール民族なら、納得できる。

Photo「フリー素材タウン」より、椿の1枚。

2016年3月10日 (木)

「トラークル全集 Ⅵ 遺稿」より「「一九〇九年集」

 青土社「トラークル全集」(1987年・刊)より、「Ⅵ 遺稿」の「一九〇九年集」を読みおえる。

 今月4日の記事(←リンクしてある)、「トラークル全集 Ⅴ」より「評論」、に継ぐ。

 この第Ⅵ章は、すべて詩稿であり、戯曲ほかの遺稿には第Ⅶ章が当てられている。

 「一九〇九年集」は、1909年のすべての詩稿とは限らないが、37編の詩を収める。

 色彩語の多用はなく、ナルシスティックな感傷を感じさせる部分があり、旧世界の没落を予感しているらしい部分もある。

Photoフリー素材サイト「Pixabay」より、ラナンキュラスの1枚。

2016年3月 9日 (水)

「シュメール神話集成」(1)

Cimg8750 1昨日(3月7日)に受け取りを紹介した、ちくま学芸文庫「シュメール神話集成」より、初めの「人間の創造」と「農牧のはじまり」を読みおえる。

 紀元前2千年紀の作品が多いシュメール神話の中で、「人間の創造」は紀元前19世紀~17世紀の、比較的新しい神話である。

 人間は、2人の神を殺した血で造られ、理由はこれまで神々が行って来た、国土を豊かにし、神々を祭る仕事をさせるためである。尾崎亨・訳。

 「農牧のはじまり」(杉勇・訳)は、欠損を含めて61行であり、「はじまり」の肝心な11行程が欠損している。

 農牧の繁栄の源は神意であるとされ、頭首となる者の出現も語られる。

2016年3月 8日 (火)

野沢節子「未明音」

 角川書店「現代俳句大系」第10巻(1972年・刊)より、12番めの句集、野沢節子「未明音」を読みおえる。

 先の2月19日の記事(←リンクしてある)、相生垣瓜人「微茫集」に継ぐ。

 原著は、1955年、琅玕洞・刊。528句。

 野沢節子(のざわ・せつこ、1920年~1995年)は、臼田亜浪の「石楠」で大野林火の選を受け、戦後に彼の「濱」に参加、のち俳誌「蘭」を創刊・主宰。

 「未明音」は、1933年頃に脊椎カリエスを病み、その闘病句集である。彼女は1957年に完治と診断された。

 結核病やハンセン病が完治する時代となり、療養文学の感じ方も変わったように、僕は思う。

 以下に5句を引く。

荒涼たる星を見守る息白く

黄塵に息浅くして魚のごとし

林檎真赤五つ寄すればかぐろきまで

白桃を剥くうしろより日暮れきぬ

霜の夜の眠りが捕ふ遠き汽車

Photoフリー素材サイト「Pixabay」より、ラナンキュラスの1枚。

2016年3月 7日 (月)

「シュメール神話集成」

Cimg8750 1昨日の記事「シリア国立博物館」で、大量の粘土板文書に触れ、「ギルガメシュ叙事詩」以外の文学がないかと書いた。

 リンクを遡ってゆくと、「ウル哀歌」という作品に辿り着いた。

 Amazonで「ウル哀歌」で検索すると、この「シュメール神話集成」に出会い、購入した。

 ちくま学芸文庫、2015年11月・刊。神話16編を収め、「ウル哀歌」は「ウルの滅亡哀歌」として載っている。ネット検索の威力大である。

 杉勇・尾崎亨・訳。原文の破損(複数行を含む)、原文あるも翻訳困難があり、注や解説を含めて、たいへんな労作と僕は思う。

 少しずつでも、ここで紹介して行きたい。

2016年3月 6日 (日)

「コスモス」3月号「COSMOS集」読了

 結社歌誌「コスモス」2016年3月号より、「COSMOS集」を読みおえる。

 同・「その一集」特選欄・読了は、先の2月29日の記事(←リンクしてある)にアップした。

 「COSMOS集」は、「その二集」と「あすなろ集」の特選欄である。

 その頃が一番元気だったなあと、「吹き溜まり」と揶揄される「その一集」に踠きながら思う。

 付箋を貼ったのは、次の1首。K・絹子さんの「ポリ袋入り」5首より。

冷蔵庫にあるものばかりの晩ごはん「ごちそうやなあ」と夫は言へり

 二人に小さな心の行き違いがあるようだが、相手が喜んでくれれば、それで良いとせねばならないだろう。

Photoフリー素材サイト「Pixabay」より、水仙の1枚。

2016年3月 5日 (土)

「シリア国立博物館」

Cimg8745 講談社「世界の博物館」(全23巻)より、第18巻「シリア国立博物館」(1989年4刷)を、ザッと見おえる。

 その前の「エジプト博物館」は、先の2月14日の記事(←リンクしてある)で紹介した。

 この博物館の展示品は、砂漠の中のせいか、財宝としては乏しい。

 この地で発見された、粘土板に彫られた、膨大な古代文字資料に、僕は関心がある。

 多くは経済関係らしいが、「ギルガメシュ叙事詩」などもある。当時、未解読の文字もあり、その他の文学はないのだろうか。

 なお「ギルガメシュ叙事詩については、このブログの2011年12月1日の記事(←リンクしてある)で紹介した。

 この巻は178ページ、写真385枚(カラー、モノクロを交え)。

2016年3月 4日 (金)

「トラークル全集 Ⅴ」より「評論」

 青土社「トラークル全集」(1987年・刊)の第Ⅴ章より、「評論」3編を読みおえる。

 同・「物語」は、先の2月20日の記事(←リンクしてある)にアップした。

 3編は、「主任演出家 フリートハイム」(全集で3ページと1行)、「グスタフ・シュトライヒャー」(4ページ弱)、「ヤコーブスとその妻たち」(1ページと2行)と、いずれも短い。「グスタフ・――」だけが、作家の作風の発展を追っていて、「主任――」は送別の公式評論らしく、「ヤコーブスと――」は罵倒である。

 訳注のいずれも原注の翻訳だけなので、理解しにくい所がある。

Photoフリー素材サイト「Pixabay」より、水仙の1枚。

2016年3月 3日 (木)

歌誌「歌壇」3月号

Cimg8727 総合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)2016年3月号を、ほぼ読みおえる。

 到着は先の2月18日の記事(←リンクしてある)にアップした。

 特集は「震災詠から見えてくるもの――東日本大震災から五年」。

 大震災を振り返る事は重要だが、安保法制への批判を逸らした感がある。僕の疑い過ぎだろうか。

 飯田彩乃さんの歌壇賞受賞第1作「永遠が近づいてくる」30首は、新鮮で落着きがある。

 「コスモス」関係では、小島ゆかりさんが座談会の司会、福士りかさんが時評「余白と奥行き」見開き2ページ、狩野一男さんが「去年今年」12首、いずれも力がこもっている。

ブログランキング

  • 応援のクリックを、よろしくお願いします。
  • ブログ村も、よろしくお願いします。

最近のトラックバック

ブログパーツ

  • ツイートをフォローしてください。
  • 3カウンター
  • アクセス解析

更新ブログ

Powered by Six Apart
Member since 04/2007

日本ブログ村

  • 日本ブログ村のリストです。

人気ブログランキング

  • 応援の投票を、お願いします。

アンケート