2004年、砂子屋書房・刊。
彼女は「未来」他で岡井隆に、「みぎわ」で上野久雄に学んでいる。
前の3分の2程を、「源氏物語」のうち、41帖に依って詠んでいる。後の3分の1程は、生活を詠み継いでいる。
僕は華やかな歌よりも、前部分にもある生活詠に惹かれた。
「悔ひつつも」「指適されたり」の表記があり、僕は誤りだと思う。編集・校正の途中で、著者も編集者も気付かなかったものか。
以下に6首を引く。
何色の花であるとも決めかねしあぢさゐの寄る雨の夕ぐれ
各々がその罪なじり合ふごとし書棚を崩れて散乱の本
傾きてならぬおもひを支へつつ地下の駅より登りてきたり
鍵盤に向かへばいつきに柔らかな翼をひらく童のをとめ
清やかなる香に立つ芹を食べをれば誰そに思はれゐる心地する
翅ひらく小鳥のやうに手をのべて抱かれにくる姉となりし児
大和書房「斎藤史全歌集」(1998年5刷)より、4番めの「朱天」を読みおえる。
8月16日の記事で紹介した、「「新風十人」より」に続く。
原著は、1943年、甲鳥書林・刊。364首(全歌集版では348首)。
多くの戦争詠を含むが、全歌集でも隠さなかった。ただし16首を削り、ある歌人は改作の疑いを示した。
以下に5首を引く。
思ひあまる事ひとたびは切りすてて身づくろひなし出てゆく我は
心飢ゑわが呼ぶ声のけものなし霞の奥におちてひびかず
われら行く道まさやかに示されぬ撃ちてやむべし勝ち終るべし
いのちありてシンガポールを踏みし兵を思ふに我も涙せきあへず
微小なる我らが生を思へらくいのちはいよよしろじろと燃ゆ
(1部、旧漢字を新漢字に替えた所がある)。
結社歌誌「コスモス」2014年9月号が、8月14日に届いた。
盂蘭盆休み前に発送するらしく、9月号は毎年、早目に届く。いつもなら、17日頃に着く。
僕の短歌は、3首が採られた。内容は、アメブロ「新サスケと短歌と詩」(このブログの右サイド下方、「リンク集」にある)の8月16日付け記事に、アップしてある。
今号の「第61回コスモス賞発表」では、若いM・芙季さんが受賞した。
本誌の初めより読み始めて、いつもの所を読みおえた。
「その一集」特選欄までと、「COSMOS集」(「その二集」と「あすなろ集」の特選欄)、「新・扇状地」(2名×15首)、他。
僕が付箋を貼った1首は、「COSMOS集」のK・孝治さんの作品(120ページ下段)である。
ひさかたの強き光に濃き影の出来をり悪はそこより育つ
教育でも、道徳だ、愛国心だと押し付け強制するから、はみ出した者が起こす陰惨な事件が多い。
大和書房「斎藤史全歌集」(1998年5刷)より、「『新風十人』より」を紹介する。
全歌集では、「魚歌」(7月27日に紹介)、「暦年」(8月3日に紹介)に次いで、3番めに収められている。
しかし全歌集の「別冊」で年譜を見ると、順序は違い、「新風十人」(1940年7月(発行?))、「魚歌」(同年・8月刊)、「暦年」(同年・11月刊)となっている。
「新風十人」には、他に佐藤佐太郎、坪野哲久、前川佐美雄らが参加した。八雲書林・刊。
以下に5首を引く。
天皇陛下万歳と言ひしかるのちおのが額を正に狙はしむ
ひびきなくふかく崩れてゆくもののおびただしさをいふこともなし
事もなく一日過ぎしといふべくは縮みゆく冬の日ざしのくらさ
瞋(いか)りたる我のこころのみじめさは冷えたる飯を噛みておもほゆ
手をあげて砕くすべなき思ひにて眼(め)はみひらきて眠るなりけり
(1部、漢字の旧字を、新字に替えてあります)。
結社歌誌「コスモス」2014年8月号を、上位欄より読み進めて、「あすなろ集」(既読の特選「COSMOS集」を除く)を読みおえた。
先月31日の記事(←リンクしてある)、「『その一集』末まで」に継ぐ。
僕が付箋を貼った1首は、新潟県のK・清さんの次の作品(137ページ上段)。
わが庭を歩くは猫か犬なるかよくよく見れば狸でありぬ
山の獣が、里に降り来て、平然と食を摂る、現代の様が描かれている。
「コスモス」会員数が、「その一集」より入会者欄へ、逆ピラミッドを成している事は、将来を危ぶまれる。打つ手はなかったものか。
大和書房「斎藤史全歌集」(1998年5刷)より、2番めの歌集、「暦年」を読みおえる。
原著は、1940年、甲鳥書林・刊。
7月27日の記事(←リンクしてある)、「魚歌」に継ぐ歌集である。
1940年の作品・111首(この全歌集版では、「紀元二千六百年頌歌」等を削除)、1928年~1931年の作品・71首(1部を削除)、「魚歌」より268首(すべて削除)より成る。
なぜ「魚歌」の3ヶ月後、前歌集の作品、初期作品も合わせて、歌集「暦年」を出版しなければならなかったか。
同年7月、歌集「新風十人」に参加して、歌人としての評価も高かったのだろうが、出版元がシリーズ「昭和歌人叢書」全10巻の1冊としたい意向もあったのだろう。
以下に6首を引く。
1940年作品
北に向く我の歩みのいちづにて驕(おご)れるごとく見ゆるをあはれ
ききおぼえ子が歌ふなるうたふしのお嫁にゆきますといふたび恐縮す
物言はず樹(き)は生きたりといふ事をことあたらしくいひもいづるよ
御いくさはすでに仏印におし進めり生きざらめやも今日の日を越え
初期作品
眼(め)を閉ぢてねむるとすれやこの宿のふとんのよごれ匂ひ来るなり
死んだふりまざまざとする昆虫は腐蝕土の底に埋(うづ)めてもやれ
(注:漢字の旧字を新字に替えた所があります)。
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