カテゴリ「歌書」の467件の記事 Feed

2013年9月27日 (金)

野中洋子「絵本の山猫」

Cimg7240_2 野中洋子さんの、「緑の歴史」に続く第2歌集、「絵本の山猫」を読みおえる。

 2008年、砂子屋書房・刊。帯。412首。

 山田富士郎「解説」7ページ、自身の「あとがき」を付す。

 当時、彼女は「未来」の山田富士郎・選歌欄に参加していた。

 優しい心で生活を詠んで、新しさや強さは少ない。引用ではそれらを多く引いた。

 僕がそれらを強く求める訳ではないが、やや類型的な作品になってしまいかねない。

 なお歌集名から示唆される、メルヘン調の作品は、ないようだ。

 以下に7首を引く。

摘みて来し木の芽草の芽よろこびて食ひたる息子を見送りにけり

台風よ来るならこいと片寄せてスクラム組ます花の鉢百に

残飯を食ひにあつまる狸らをライトアップに見せる湯の宿

海鞘(ほや)といふ怪異なものに刃を入れて松のとれたる食卓にのす

さくら咲き紫木蓮咲き娘らとすごす二日のはやく過ぎたり

太刀に似てすらりとながき太刀魚の箔落ちやすし俎板の上

あへぎつつのぼりきたれば東屋のベンチゆづりてくだりゆく猫

2013年9月24日 (火)

鈴江幸太郎「雪後集」「『雪後集』以後」

 初音書房「鈴江幸太郎全歌集」(1981年・刊)より、15番めの「雪後集」と、それより亡くなるまでの作品を全歌集に載せた、「『雪後集」』以後」を読みおえる。

 先の9月11日の記事(←リンクしてある)にアップした、「石蓴集」に続く、最後の作品群である。

 「雪後集」の原著は、1981年、初音書房・刊。328首。

 年譜の1980年5月、6月の項に、喉頭・声帯障害のためコバルト照射を受く、とあって癌だったようだ。

 1981年7月、「雪後集」」刊行。11月4日、逝去。12月30日、15歌集に「『雪後集」』以後」35首を加え、解説、年譜、後記を付して、全歌集・刊行。

 「雪後集」より6首、「『雪後集」』以後」より1首を引く。

暖かきみ冬の園をよろこびてまづ池の上の白梅(しらうめ)の花

五十年前のある夜の櫻ばな君も夫人も世盛りにして

夏ごとのかかる集ひも幾十年嗄れたる聲もすでに嘆かず

相鬪ひ若く死にしをあはれみて巌流島の名をとどめたり

老次(おいなみ)の我は登らず草靡け嶺を極むる友ら見てゐる

コバルトに日々に喉(のみど)を灼きて臥す今更にして命惜しめば

聲戚(しじ)む老といへども新妻のわが孫の聲にしばし救はる

A「フリー素材タウン」より、コスモスの花の1枚。

2013年9月21日 (土)

奥本守「泥身」

Cimg7228 奥本守(おくもと・まもる)さんの第2歌集、「泥身」を読みおえる。

 まひる野叢書第156篇、百日紅叢書47篇。

 1997年、ながらみ書房・刊。512首。

 彼は、原発銀座(半径55キロ以内に原子炉15基がある)と呼ばれる若狭に住み、農業の傍ら、労務者として原発・他の現場で働いている。

 原発・事故の危険性を第1歌集「紫つゆくさ」(僕は未読)でも詠い、原発現場を解雇された。現在の福島原発事故を、どう詠んでいるのか、とても気になる。

 また挽歌、とくに著者43歳で得た息子が21歳で交通事故死した、嘆きの1連もある。

 以下に7首を引く。

絶対にないと言われし細管のギロチン破断す美浜二号機

田植え終え勤務(つとめ)先なる原発に来しわれ解雇を告げられて立つ

壁厚く窓なき大き室(へや)を掃く個体廃棄物ここに積まれん

人間の焼かるる音を近く聞く骨(こつ)となるべきすさまじき音

幻覚にあらず地震に倒壊の街に火の海広がりてゆく

ナトリウム漏洩は設計ミスなるか隠さず正しく原因を言え

ようやくに二十一歳勤めして十ヵ月目に子は逝く早し

2013年9月19日 (木)

小畑庸子「孤舟」

Cimg7222 小畑庸子さんの第7歌集、「孤舟」を読みおえる

 2006年、角川書店・刊。

 水甕叢書第787篇、角川書店「21世紀歌人シリーズ」の1冊。

 彼女の歌は、時どき武張った作品がある。

 女性が現代で、力まなければならない場合もあるだろうが、文芸の表現で力んでほしくない。

 彼女はまた、短歌に新しい表現(と僕にはおもわれる)を取り入れる事に、執心している。

 新場面や俗語などなのだが、短歌の表現の領域を拡げるものとして、心をうつ。

 それらから絞って、以下に7首を引く。

ビニールホースの小さき傷が垂直に噴く春の水土に吸はるる

フリーランスの戦場記者の死、その妻は笑みをり皮膚の下にて哭きて

実よりも虚のやや多きひと日暮れ明日の我にわづか間のあり

カード式キー失せいたく困られしことも聞きにき扉の前に

風吹けばわがセンサーを刺激せり子が植ゑゆきしマリーゴールド

太りたる鳩と電車の去りしのち両足跳びに冬雀来る

ざんばら髪ふり落したる森木木に荒武者一騎鞭くれてゆく

2013年9月17日 (火)

歌誌と小説

Cimg7216

Cimg7218 今日の午前中に、書店「KaBoS ワッセ店」へ行き、総合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)の10月号を買った。

 今号にはミスがあり、目次全体が9月号ぶんのページだった。部数が多いから、珍本にならないだろう。

 帰宅して昼食を摂ると、結社歌誌「コスモス」10月号が届いた。

 僕の歌は(10首出詠の内)、3首選だった(残念)。

 Amazonのマーケットプレイス「Urotauso」に注文していた、古井由吉の小説、「水」(1980年、集英社文庫)が届いた。

 文庫本棚に寄せてある、古井由吉の文庫本小説が、これで6冊になった。行方不明の文庫本がある事も、わかっている。いつに読み始めるものか。

2013年9月12日 (木)

前田静枝「葉桜の道」

Cimg7198

 前田静枝(まえだ・しずえ)さんの第1歌集、「葉桜の道」を読みおえる。

 2010年、不識書院・刊。

 彼女は、幼い頃より短歌に親しんだが、結婚、育児、海外渡航によって、作歌を中断。夫を亡くされて落ち込んでいた頃、家族の勧めで短歌教室に通い、1997年に「未来」入会。

 初めは近藤芳美・選を受けたが、近藤・没後は桜井登世子の選を受けている。

 大人しい人柄ながら、それをも自省する風で、作品に気品を与えている。

 以下に7首を引く。

椋鳥も尾長もむれてついばめり汗し刈りたる芝庭のかげ

逃げるなと吾が手を強くにぎりしめ夫は幻覚のなににおびえき

戦場に兄を送りし日の母が画面をよぎるイラク派遣に

かきつばたふかむらさきに群れ咲ける水際をゆけばはなびらゆらぐ

雨のふる成城の町をただ歩む「近藤芳美をしのぶ会」も過ぎ

かかる日の来るとは、思わず涙してオバマの勝利宣言をきく

ふるさとの胎内川の上空を朱鷺とぶと今朝のニュースは伝う

2013年9月11日 (水)

鈴江幸太郎「石蓴集」

 初音書房「鈴江幸太郎全歌集」(1981年・刊)より、14番めの歌集、「石蓴集」を読みおえる。「石蓴」は国語辞典で「あおさ」と引けば出て来る。他の読み方が、あるかどうか知らない。

 今月2日の記事(←リンクしてある)で紹介した、「鶴」に継ぐ歌集である。

 原著は、初音書房、1979年・刊。

 420首を収めて、序文もあとがきも無い。

 彼の歌には、字余りが多いなど、破調とも取れる作品が稀にある。ここではピックアップしなかったけれども。

 以下に7首を引く。


藤波に寄する思ひも幾十年けふ淸瀧の瀨の上の花

瀨々の音河鹿のこゑの高まれば闇に相追ふ螢の光

下りゆく池の汀におのづから朽ち果てし幹仆れかさなる

松すこし見ゆるは海に入るあたりただ川波のひろく押し行く

一夜寝て友に隨ふ瀨の上の道は河鹿の乏しらに鳴く

線香の燃え盡くるまでみなぎらふ暑き光に妻は立つらし

さまざまの思ひに見たる富士の嶺けさも安らぎて仰ぐにあらず

Photo

2013年9月 5日 (木)

久瀬昭雄「蒼茫の海」

Cimg7188_2
 久瀬昭雄(くぜ・あきお)さんの第1歌集、「蒼茫の海」を読みおえる。

 2010年、ながらみ書房・刊。

 桜井登世子・跋・帯文。

 彼は1994年に「未来」入会、歌集発行の当時は桜井登世子の選を受けていた。

 彼の短歌には、豪傑風のところがあって、僕は少し引く。

 ただし彼は、企業では豪傑であったので、企業戦士・モーレツ社員的に働いたらしく、「あとがき」にも「戦後復興で(中略)、連日遅くまで猛烈に働いた」と述べている。

 この歌集・発行時には83歳を迎えているので、もう力まなくてもよいのではないか。

 以下に7首を引く。


南溟のサイパンに果てしわが兄の遺しし書物『哲学以前』

薄れゆく記憶のなかに母は在ます氷片口にただ臥しましき

「永保寺の紅葉へ行こう」娘が誘う術後のわれの鬱晴らさんと

アイポッド胸にぶらさげプッチーニを聴きつつ登るリハビリの隥(さか)

祝うほど稀にあらざる七十歳がウメバチソウを探しあてたり

衰えし手足で括る本の山立ち読みはやめよ日暮れは近い

今はただ凪も嵐も夢のなか白帆返して青潮をゆく

2013年9月 2日 (月)

鈴江幸太郎「鶴」

 初音書房「鈴江幸太郎全歌集」(1981年・刊)より、13番めの歌集「鶴」を読みおえる。

 先の8月19日の記事(←リンクしてある)、「花筵」に継ぐ歌集である。

 原著は、1977年、初音書房・刊。

 370首、後記を収める。

 吟行の歌の他、次男の自死を嘆く「悲歌」「餘涙雑唱」の連がある。

 著者78歳だが、後記では「まだ何かが開けないにも限るまい」と、将来に希望を持っている。

 以下に7首を引く。


祖父の字を軸とし舅
(ちち)の字を額とせり我より若く逝きて惑はず

荒磯を高くおほへる潮けぶり吹かれてうごく中に降りゆく

社務所にて妻が買ふ小さき土鈴の鳴る音にだに安らふらしも

ゆるやかに空めぐり來て群のなかにくだり立つ鶴こゑも立たなく

伏兵の出でし如くにうろたへて思はぬ怒もてあましをり

木群のなかすこし窪みて坑口のあとといふとも葛の覆へる

守る如く我につづけるわが友ら坂の上には寺門(じもん)見え來ぬ

Photo
無料写真素材サイト「足成」より、秋明菊(貴船菊)の1枚。

2013年9月 1日 (日)

「歌壇」9月号

Cimg7177
 総合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)2013年9月号を読みおえる。

 短歌作品をおもにして、散文(評論等)では読まなかった部分もある。

 巻頭20首4編では、藤原龍一郎「闇の蜜」が面白い。

 壇蜜やアマゾンなど世情を詠い、国防軍化への趨勢を詠う。

 このような新しがりも、僕の読むうちでは、すっかり少なくなった。他のグループや若者の間では、盛んかも知れないが。

 多くの評論も、記す人はたいへんだろうと思う。バラストの短歌の、更に底を支えているのだろうから。

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