カテゴリ「詩集」の190件の記事 Feed

2013年2月24日 (日)

青山雨子「レモン」

Cimg6801 県内に在住の詩人・青山雨子さんより、詩集「レモン」を頂いた。

 2013年2月、書肆山田・刊。

 2011年・発行の「白い地図」に続く、彼女の第4詩集である。

 題名の表記「レモン」は外来語なのでこれで良く、「檸檬」は梶井基次郎の小説の題名で、「れもん」は多田裕計氏の俳誌の名前である。

 詩風は、清潔な風が、身近な人たちを吹き渡ってゆくようだ。

 以前より受取りやすいのは、レベルを下げたのではなく、彼女の包容力が広がり厚くなったためだ。

 14編を収め、しまいの「レモン」は10ページにわたる散文詩である。

2013年2月 9日 (土)

神子萌夏「白をあつめる」

Cimg6769 県内にお住まいの詩人・神子萌夏さんの詩集、「白をあつめる」を、詩誌仲間・AUさんを通して受け取った。

 2013年、ジャンクション・ハーベスト・刊。

 ビニールカバー装だが、光の反射が強いので、写真では外してある。

 「透き通ってゆく午後」、「植物系」に続く、彼女の第3詩集である。

 作品「ひこうき雲」の第3連に「ふつかごとにリセットされるいのち/フィルターで濾過される/わたしの日々のいとなみ」とあるように、彼女は週3日の人工透析を受けている。

 だから彼女は、生命にとても敏感だ。

 「約束」で受胎を歌い、「草の香り」でバッタの余命を気遣う。

 「ことばを探して」は、豊かなレトリックを用いた、優れた作品である。全6連の最終連のみを引く。

  「ことばを探して」より


ことばは増えたのに

うまく取り出せなくて

いまもわたしの海のなか

ひかる小魚たちが

ぐるぐるまわっている

2012年12月15日 (土)

石原吉郎「満月をしも」

Cimg6654 一昨日に続き、石原吉郎の遺稿詩集「満月をしも」を読みおえる。

 1978年、思潮社・刊、箱、帯補。

 先の12月11日の記事で、購入報告した本である。

 なお彼は、1977年に急死した。

 彼をめぐっては、この帯にもあるように、「断念」とよく言われるけれども、内容やいきさつは、詩からのみではわかりにくい。

 評論等も含めた、彼の3巻本全集が、花神社から出ているが、ネットの「日本の古本屋」で見ると数万円もの値がついて、僕にはとても買えない。

 彼の作品に接すると、接しない人とは、人生が変わる、と複数の文学者が書いている。僕ももっと早く、彼の作品を読むべきだったのだろうか。

 彼の短い詩「影」全文を引く。


  影


あとへ曳くなら

曳かせておけ

横へ曳いたら

横へ曳かせろ だが

その影に

「寂しい」とは

一と言も言わせるな

2012年12月13日 (木)

石原吉郎「足利」

Cimg6651_2 石原吉郎(いしはら・よしろう)の詩集、「足利」を読みおえる。

 花神社、1977年・刊。箱、帯。

 短い詩が多く、40編を収める。

 これまで紹介してきた「石原吉郎全詩集」の終いの詩集「北條」に継ぐ詩集である。

 折り目正しい、礼儀に篤い、彼の境地が表されている。

 1編の短さ、1行の短さは、彼が関わった句作の影響があるかも知れない。

 俳句の短い定型、季語のしばりでは、思いを述べることは難しい(?)。彼の、言外の思いを汲み取ってもらいたい、という詩作法は、それからも来ているようだ。

 彼の短い詩「一期」全文を紹介する。

  一期(いちご


一期にして

ついに会わず

膝を置き

手を置き

目礼して ついに

会わざるもの

2012年12月11日 (火)

「現代詩年鑑」と詩集「満月をしも」

Cimg6644Cimg6645














 Amazonへ注文していた、思潮社「現代詩年鑑2013」が届いた。

 「詩人住所録」には僕の名前が、「詩誌一覧」には僕の参加する詩誌「群青」「青魚」が載っている。

 毎年買うのだが、その確認だけではもったいないので、ぼちぼち読んでゆきたい。

 「日本の古本屋」を通して、東京都の古書店「心願社」に注文していた、石原吉郎の遺稿詩集「満月をしも」が届いた。1978年、思潮社・刊、箱、帯補。

 先の12月8日付け記事の末尾に、「取寄せ中」と書いた本である。

2012年12月 8日 (土)

石原吉郎・未刊詩篇

 花神社「石原吉郎全詩集」(1976年・刊)より、「未刊詩篇」を読みおえる。

 「Ⅰ 文章倶楽部・ロシナンテから(8編)」と「Ⅱ シベリヤ詩篇から(4編)」の2つに分かれる。

 「文章倶楽部」は投稿文芸誌だったらしく、「ロシナンテ」は1955年創刊の同人詩誌である。初出が彼の第1詩集「サンチョ・パンサの帰郷」の詩と重なる作品があるが、篩い分けの基準は僕にはわからない。

 「古い近衛兵」の末4行を引く。

  

  古い近衛兵

    (前略)

われらはたえまなく

雨によごれたひげをひねり

はみだした勇気をおしこんでは

不発の衝動をひきよせる

  「シベリヤ詩篇」は、抑留時代に創って記憶していた作品を、書き残したものである。文語調の詩である。

 「裸火」全5行を引く。

  

  裸火

    ( 一九五二年 ハバロフスク)

われやはらかき

手のひらもて

風に裸火をふせがん

またたける

いのちを掩はん

 生前の全詩集だったので、このあと2詩集がある。「足利」は所有しており、最後の詩集「満月をしも」は取寄せ中である。

2012年12月 3日 (月)

石原吉郎「北條」

 花神社「石原吉郎全詩集」(1976年・刊)より、6番めの詩集「北條」を読みおえる。

 原著は、1975年、花神社・刊。

 先の11月29日に紹介した、「禮節」に続く詩集である。

 石原吉郎(1915~1977)にはこのあと、「足利」「満月をしも」の2詩集がある。

 全詩集に載る、最後の詩集である。このあと、句集と未刊詩篇等を収める。

 「北條」では、「一條」「北條」から始まる散文詩で、語感に頼りながら、詩を成り立たせている。

 彼の郷愁が満たされた(彼の思いと、戦後日本の心情・風土には違和があったようだ)時期か。しかし言葉の上でだけの事かも知れない。

 「痛み」という散文詩で彼は、「 最後に痛みは ついに癒されねばならぬ」と書く。最後まで癒されぬ痛みもあるだろうに。

Phm10_0597_2
ダウンロード・フォト集より、清流の1枚。

本文とは無関係。

2012年11月29日 (木)

石原吉郎「禮節」

 花神社「石原吉郎全詩集」(1976年・刊)より、5番めの「禮節」を読みおえる。

 原著は、1974年、サンリオ出版・刊。

 先の11月19日に紹介した、「水準原点」に続く詩集である。

 冒頭の作品「断念」には、シベリア抑留時代の考えと、日本での生活の考えを、切り離そうとするようだ。初めと終わりを引くと、次のようである。

この日 馬は

蹄鉄を終る

あるいは蹄鉄が馬を。

  (中略)

馬は脚をあげる

蹄鉄は砂上にのこる

 「犯罪」では、言葉の意味やイメージから、語感の詩へ移る、と宣しているようだ。初めの3行のみ引く。

音楽であるために

かくもながい懲罰を

必要とした

  (後略)

 「闇と比喩」では、彼の詩の出発が、戦後詩の主流であった、比喩に比喩を重ねるような手法を、採らなかった理由を示すようだ。末尾の4行を引く。

  (前略)

比喩とはならぬ

過剰なものを

闇のかたちへ

追い立てながら

 このあと彼は、後期の「北條」「足利」の詩集へ、移って行く。

2012年11月19日 (月)

石原吉郎「水準原点」

 花神社「石原吉郎全詩集」(1976年・刊)より、4番めの「水準原点」を読みおえる。

 原著は、1972年、サンリオ出版・刊。

 石原吉郎は、シベリア抑留を体験する事に由って、詩人となった。

 戦時日本の、シベリア抑留の、戦後日本の、倫理を問い続けて、人間的であった。

 彼のその後の詩と、彼の散文を読んでいない(彼の全3巻の全集に含まれる)ので、その心の経緯を僕は語れない。

 以下に、彼の短めの詩を1編、丸ごと紹介する。

  

  右側の葬列

    石原吉郎


その右側の葬列のため

ひたすらに その

ひだりがある

ひだりへ流れる

布の蒼白がある

蒼白のための

わずかな紅(くれない)がある

紅を点ずる

さいごの仕草がある

仕草をおさえる

おしころした手がある

その手ではじまる

葬列の右側がある

Phm10_0327
 ダウンロード・フォト集より、野の花木の1枚。

 本文とは無関係。

2012年11月13日 (火)

石原吉郎「斧の思想」

 花神社「石原吉郎全詩集」(1976年・刊)より、3冊めの「斧の思想」を読みおえる。

 彼は「残り火・1」の冒頭「そのひとところだけ/ふみ消しておけ/そういう/ゆるしかたもある」と書いたが、モチーフであろうシベリア抑留が「許される」事ではなかった。ソ連が崩壊し、その理念も崩壊した。

 表題作の「斧の思想」では、「森が信じた思想を/斧もまた信じた/斧の刃をわたる/風もまた信じた」と語る。何にでも哲学はある。「斧の思想」が、シベリヤでの森林伐採使役を合理化しようとするものなら、のちの世代の僕らは、否定し得る。

 「背後」では、「打つものと/打たれるものが向きあうとき/左右は明確に/逆転する/わかったな それが/敵であるための必要にして/十分な条件だ」と書いて、敵対の原型を描いた。

 彼は詩を書き、許す事に拠って、許されたのだろうか、ソ連崩壊も知らずに。

Phm10_0496
ダウンロード・フォト集より、湖の1枚。

本文とは無関係。

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