カテゴリ「詩集」の190件の記事 Feed

2012年3月10日 (土)

北沢十一「奇妙な仕事を終えた夕暮れに」

Cimg5740 3月6日の、「群青の会」会合(記事あり)のおり、AUさんより借りた詩集、北沢十一(きたざわ・じゅういち)さんの「奇妙な仕事を終えた夕暮れに」を読みおえる。

 2004年、創風社出版・刊。

 僕はAUさんより借りた詩集に、あまり好意的な感想を持たない。

 彼女へ詩集を贈った人たちに、嫉妬しているのかも知れない。

 この詩集では、暗喩などレトリックの豊かな作品が多い。

 修辞にこだわって、詩の付加価値を高くしても、僕には何にもならない。

 それでも修辞には力を感じるので、1節を引く。

  自由時間
     北沢十一

    (ベランダで)

雨の時代は要という言葉を膝におく

 ひんやりとしたきみのズボンは

 岸辺のない川を泳ぎ続けている

 ダムに沈んだ小学校の

 渡り廊下が貨物船のデッキのように見える

 やがて月がのぼれば腰という言葉が痛みだす

2012年3月 9日 (金)

藤原定「吸景」

 沖積舎「藤原定全詩集」(1992年・刊、限定500部)より、第4詩集「吸景」を読みおえる。

 原著は、1974年、八坂書房・刊。

 「序詩 老いたる太陽」「海」「影」「石」「山」の5編の長編詩を収める。

 僕がソネット詩など短い詩(短歌を含め)ばかり書いているせいか、長編詩には怖れを抱く。

 長編詩といえば、ホイットマン「草の葉」(岩波文庫)と、ロートレアモン「マルドロールの歌」(思潮社「ロートレアモン全集」より)を、読み始めた事があるが、早々に退却した。

 ただし全詩集など、分厚い詩集を読了した事はある。

 この詩集作品の執筆頃には、大学教授を辞していたのか、好む渓流釣りを思わせる「山」や、故郷の海と感応しあいもする「海」など、自由な発想である。

2012年2月27日 (月)

藤原定「僕はいる 僕はいない」

 沖積舎「藤原定全詩集」(1992年・刊)より、3番めの詩集、「僕はいる 僕はいない」を読みおえる。今月15日の記事にある「距離」に続いて。

 原著は、1964年、昭森社・刊。

 ようやく戦後詩的な世界におおわれる。方法的にシュールリアリズム、手法的に暗喩の多用、思想的に実存主義的な世界だ。

 たとえば、「夜の中へ」の初連は次のようだ。


夜の中へ

   藤原定


あなたにも私にももう方位感覚が失われたのに

跪かねばならぬ時が来ている

涸れてしまった泉のまわりで

候鳥が古い記憶をまさぐるように

 

 初め2行がシュールな設定(作者の心的状況の暗喩)であり、あと2行が(この場合には「ように」が使われて、直喩のようだが、暗喩の中の比喩は暗喩だと思う)更に暗喩を重ねて描いている。

 このような日本の戦後詩の世界は、ある時期より崩れてしまい、戦無詩とでも呼ぶべき世界へ入ってしまう。(講師的な事は、書きたくないのだが)。

2012年2月15日 (水)

藤原定「距離」

 沖積舎「藤原定全詩集」(1992年・刊、限定500部)より、2番めの詩集、「距離」を読みおえる。

 原著は、1954年、書肆ユリイカ・刊。

 恋愛や性を扱った作品をまじえながら、彼の生が描かれてゆく。

 それらが創られたと考えられる時期に、妻との別居・離婚があり、詩集刊行の3ヶ月後に再婚している。

 彼は第1詩集「天地の間」の自跋で、「私は一介の市井人にすぎず、甚だしく詩才に恵まれた詩人ではないであらうと思つてゐる。」と述べている。

 「距離」の詩も、そのような自覚のもとに書かれているようだ。

 ただし、それよりの飛躍を窺わせる作品があり、次の「僕はいる 僕はいない」を含め、以降の詩集を読む事を、僕は楽しみにしている。

2012年2月 9日 (木)

藤原定「天地の間」

Cimg5672 沖積舎「藤原定全詩集」(1992年・刊)より、第1詩集「天地の間」を読みおえる。

 全詩集は、輸送用箱、箱、8ページの栞・付き。

 このブログの、2007年7月4日の記事に、「日本の古本屋」を通して買った、と書いてある。

 写真は、全詩集の箱の表である。

 詩集「天地の間」は、元は1944年に八雲書林より刊行されたが、この全詩集に収められたのは、1955年・東京創元社版である。

 異同は栞の、「『藤原定全詩集』覚え書」によって明らかである。

 「天地の間」」の作品には、1種の優越感があるように感じられる。

 それは「Ⅰ」と「Ⅱ」が(そのあと「Ⅲ」がある)戦時中の中国で創られたせいか、知識人の大衆に対するそれか、僕にはわからない。

 確かに彼は優越した生を送ったのであり、戦後すぐ法政大学の講師(1948年・教授)となり、1969年(停年の一年前)まで勤め上げた。何を教授していたかは、年譜に書かれていない。退職後も執筆・講演などの活動を続けた。1990年・没、85歳。

 彼の郷里は、福井県敦賀郡(現・敦賀市)である。

2012年1月26日 (木)

岡井隆「月の光」

 思潮社「岡井隆全歌集」第Ⅳ巻(2006年・刊)より、彼の詩集「月の光」第6章を読む。

 扉に次のように書かれてある。「本書は著者のこれまでに書いた詩作品を編んだ「詩集」である。全六章のうち、既刊全歌集と重複のない最終章のみ収録した」。

 これまで彼の全歌集を読んできたが、詩作品はこれといって僕の内に残っていない。この第6章には、8編の旧仮名遣いの詩が載る。

 彼はその後も詩集を発行し、評価されている。現代詩人の奮起を望みたい。

 以下に1編を引く。


  愉快な仲間

    岡井隆


愉快な仲間がゐないことが鉄則

涙の河におぼれてゐることが鉄則

知るより先に感じることが鉄則

西久保三丁目を馬にのつて走り抜けながら

老いた 武士 は一瞬 鉄則に鞭打ってしまつた

2012年1月17日 (火)

「世界詩人全集」第24巻

Cimg5611 「世界詩人全集」第24巻、「世界名詩名訳集」を読みおえる。

 新潮社、昭和43年・刊。

 箱、帯、本体にビニールカバー、月報・付。

 森鷗外・上田敏より堀辰雄・三好達治に至る13氏による、外国の詩の邦訳を収める。

 ただし、5・7調、旧かな、古典文法の訳が多い。編者の河盛好蔵氏の好みとはいえ、古びている。現代詩とは呼びがたい。そう謳っている訳でもないが。

 外国詩の邦訳史の前期を辿るとすれば、良い概観を与える。

 全24巻のこの全集も、途中で飛ばした巻があったとはいえ、終りに至った。

 また新しい全集を読み出そうか。

2012年1月 5日 (木)

笠井忠文「観覧車」

Cimg5585
 昨年12月20日に、同人詩誌「群青」のメンバーが集まった時、AUさんより僕が借りた詩集6冊のうち、最後の笠井忠文「観覧車」を読みおえる。

 2001年、乾季詩社・刊。

 彼の第3詩集。

 詩「撫でる」「贈り物」のある行によって、彼が医師だとわかる。

 僕は「医師は詩を書かないでほしいなあ」と思う。

 医学治療の緻密さと、詩を書く緻密さは、ベクトルを異にしている。

 単に僕の嫉妬かも知れないが。

 「観覧車」の作品は、淡々たる詩群である。

2012年1月 4日 (水)

大岩弘「夜陰に向かう」

Cimg5580 昨年12月20日に、同人詩誌仲間のAUさんより借りた詩集6冊(当日に記事あり)のうち、5冊めの詩集、大岩弘「夜陰に向かう」を読みおえる。

 2011年6月・刊、私家版、彼の第4詩集。

 先行する彼の詩集を読んでいないなど、細かい事は知れないけれど、防空壕に空襲を避けた幼年時代を過ごし(「小さな記憶」)、戦後は組合活動に加わり、母親も左翼活動に加わった(「一九六〇年代・青春」)。

 会社からの馘首に遭い(「解雇」)、妻との相克があり(「町外れの夕餉」)、心に無残さを感じながら再就職の職場に出勤する(「いつもの朝」)。

 戦後左翼の隆盛と後退を、身をもって、生活をもって体験した者の、詩によってのみ灯りを求めた(「我が詩を追って」)歩みが、誠実さをもって描かれる。

2011年12月30日 (金)

ヒメーネス「プラテーロとわたし」

Cimg5570 今年11月19日の記事で、「楽天ブックス」よりの到着を報じた詩集、J.R.ヒメーネス「プラテーロとわたし」を読みおえる。

 岩波文庫、2011年3刷。

 306ページに138編の散文詩、73ページに306件の訳注、13ページの解説、参考地図2点を収める。

 スペインの首都マドリッドで神経を傷めた詩人が、故郷の田園に戻り、けなげな驢馬プラテーロに語りかけ、共に遊ぶ様が、プラテーロへの追悼を含めて、散文詩化されている。

 詳細な後注は、めんどうでも確かめたほうが、詩の理解に役立つ。

 後半に入って病状が良くなると、初めの療養期より、情が薄くなるようだ。彼は首都に戻り、スペイン内戦の時に脱出し、アメリカ・プエルトリコ・キューバなどで暮らし、祖国に帰らなかった。

 1956年、詩人が晩年の75歳のときに、ノーベル文学賞を受けた。

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