カテゴリ「句集」の145件の記事 Feed

2012年2月29日 (水)

尾崎迷堂「孤輪」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・刊)より、11番めの句集、尾崎迷堂「孤輪」を読みおえる。

 原著は、昭和16年、泰文堂・刊。

 自序、1000句、水原秋櫻子の「跋」を収める。

 彼は天台宗の僧侶である。

 このあたりの巻には、僧侶、結核患者、男勝りの女流、等の句集が多い。

 なぜ労働者の句集がないか。当時、句作が大衆化していなかったのか、戦時下の句集で戦争吟の無い(あっても僅かな)句集を、後世に拾い上げようとすると、めぼしい本はそれらしか無かったのか。監修者の拘りもあるようだ。

 この句集の著者は、密教・禅の僧であって、月並みな句はない。以下に5句を引く。

元日やたゞ世の常の筧音

文机は経机かな西行忌

夏の雲の移り易きを好みけり

秋風に衰へも無き大樹かな

湯を汲みて濡れし茶杓の冴えにけり

2012年2月17日 (金)

及川貞「野道」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・刊)より、10番めの句集、及川貞(おいかわ・てい)「野道」を読みおえる。

 原著は、昭和16年、甲鳥書林・刊。

 水原秋櫻子の序文、313句、後記を収める。

 平凡な主婦の日常を句にして、当時は異彩を放った、とされる。

 彼女はその後、戦争により自分の子、1男2女をすべて失い、海軍軍人であった夫にも何らかの事はあっただろう。それらすべてを、彼女は句を吟ずる事で、乗り越えたようだ。

 以下に5句を引く。

桔梗や湖上に雨は降りいでぬ

室咲と並びて縁にものを縫ふ

盆支度して古町のひそとあり

梅雨ふかし蔓まきそめし朝顔に

三つ星の上に月ある寒さかな

2012年2月10日 (金)

岡本松浜「白菊」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・刊)より、9番目の句集、岡本松浜(おかもと・しょうひん)「白菊」を読みおえる。

 彼は1時、「ホトトギス」の会計・編集の一切を任されるが、会計上の不都合を重ね、大阪の生家に戻った。1時は俳誌を発行したが5年で廃刊、以後は金銭上の不義理を重ね、昭和14年、6畳の貸し間で窮死した。

 「白菊」は、晩年まで彼を見棄てなかったわずかな弟子のうちの一人、下村槐太が師の3回忌の追善のため、自ら原紙を切り製本した、少部数の謄写版句集である。

 その後は忘れられていたらしいが、こうして全集に収められれば、その句は長く残るだろう。文学に関わる者は、作品が優れていれば後世に残る、という事か。

 以下に5句を引く。

春の夜や草履に軽き町歩き

豆雛の目鼻ゑがきて世を送る

雲の峰百姓うごくばかりなり

大障子うす日さしつゝ野分かな

肩掛けや妻なる身にて勤め人

2012年2月 3日 (金)

川端茅舎「白痴」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・発行)より、8番めの句集、川端茅舎・第3句集「白痴」を読みおえる。

 原著は、昭和16年、甲鳥書林・刊(昭和俳句叢書の1冊として)。

 「大系」第1巻に収載の、彼の第1句集「川端茅舎句集」については2010年8月21日の記事 に、第3巻に収載の、第2句集「華厳」については2011年5月18日の記事に、それぞれ感想を述べてある。

 句集「白痴」の頃、茅舎の肺結核が重態になり、句集発行の17日後に逝去している。

 昭和15年・結成の「日本俳句作家協会」が、昭和17年には「日本文学報国会・俳句部会」に移る時代に、無用無為の病人の自覚から、非戦吟を続けた俳人である。

 以下に5句を引く。

菊日和道を放射に環状に

わが咳くも谺ばかりの気安さよ

汗たぎちながれ絶対安静に

好きといふ露のトマトをもてなされ

冬晴をまじまじ呼吸困難子

2012年1月19日 (木)

西島麦南「人音」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・刊)より、7番めの句集、西島麦南(にしじま・ばくなん)「人音(じんおん)」を読みおえる。

 原著は、昭和16年、甲鳥書林・刊。

 長い「序にかへて」、500余句、後記を収める。

 彼は「序にかへて」で「私は、芸術を衣食する資格を自らにゆるさない。」と書いたように、初期には「新しき村」への入植、それにも納得せず岩波書店に校正担当として入社、「校正日本一」と賞賛されるまでになった。

 専門俳人でないせいか、きらびやかな句はまれだが、地味に吟じ続け、戦時下にあって時局吟は1句もない。

 以下に5句を引く。

文弱のそしりに堪ふる卯月かな

惜しみなき千草の花の供養かな(温亭忌)

郁李(にはうめ)に春光あはき蝶のかげ

蒪生ふ沼のひかりに漕ぎにけり

菱の水めだか微塵に孵りけり

2012年1月11日 (水)

石塚友二「方寸虚実」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・刊)より、6番めの句集、石塚友二「方寸虚実」を読みおえる。

 原著は、昭和16年、甲鳥書林・刊。

 昨年12月14日の記事 で、中島斌雄・句集「樹氷群」を紹介して以来である。

 裕福・インテリの中島斌雄と対照的に、農家の次男として上京し、苦労人の石塚友二である。

 横光利一の序文、392句、後書を収める。

 戦時下、ファナティックにならず、生活の方寸の間に句材を求めている。それでも

菊花節大東亜圏晴一天

の句があるのは惜しい。

 以下に5句を引く。

玉萵苣の早苗に踞むバス待つ間

夜の酷暑氷塊惜しむ舌端に

休日の塵用暑き雨衝きて

邂逅の不可思議栗を剝き対ふ

人気なく火気なき家や俄破と出づ

2011年12月14日 (水)

中島斌雄「樹氷群」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・刊)より、5番めの句集、中島斌雄(なかじま・たけお)「樹氷群」を読みおえる。

 原著は、昭和16年、甲鳥書林・刊。

 自序、昭和6年より昭和15年に至る388句、長い長い自跋(句歴、俳論を含む)を収める。

 彼の句には反戦、とまで言えなくても、厭戦的傾向がある。

 それは東大大学院を修了し教諭・教授を務めた知性か、旅行(登山、スキーを含む)を楽しめる家庭的余裕からか。

 以下に6句を引く。

しんしんと霜おく気配筆を擱く

妻はたゞ栗拾ふことひたすらに

妻の手の冷たしバスは山に入る

英霊還る川涸れ鴉あまたあさる

歓送の渦の外(と)寒く老婆負はれ

林檎樹下妻よリユックの麵麭食まう

2011年12月 6日 (火)

東鷹女「魚の鰭」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・刊)より、4番めの句集、東鷹女(ひがし・たかじょ)「魚の鰭(うおのひれ)」を読みおえる。

 原著は、昭和16年、甲鳥書林・刊。

 自序、619句、後記を収める。

 句集は大きく3部に分かれ、3部は逆年順に置かれる。

 戦争吟が少し混じる。

 僕は初期の頃の作品に、秀句が多いように思う。

 のちに彼女は三橋鷹女を名乗り、全句集、全集も出版された。

 以下に5句を引く。

林枯れ白雲われを脅す

電工はかなしからずや天(あめ)灼くに

秋刀魚焼く憎しみは鋭き焔(ひ)に焼かれ

秋風裡兵への手紙書きつづく

蒲公英暮れ蟇暮れこころ哭いてゐる

2011年11月25日 (金)

河野静雲「閻魔」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・刊)より、3番めの句集、河野静雲「閻魔」を読みおえる。

 原著は、昭和15年、同句集刊行会・刊。

 高浜虚子の長い序文、600句、自跋を収める。

 地方にあって喧噪を避け、僧という立場にあって生死に敏感だったのか、時局吟はない。地方の大将的な所も少しあったようだ。

 以下に5句を引く。

春雪や柩はさみて傘の列

梅の中敷石分れ塔頭へ

道ばたのころげ文旦野分あと

蟷螂や泥まみれなる斧かざし

風鈴にほ句問答もあきにけり

2011年11月 7日 (月)

瀧春一「菜園」

 角川書店「増補 現代俳句大系」第4巻(昭和56年・刊)より、2番めの句集、瀧春一「菜園」を読みおえる。

 原著は、昭和15年、泰文堂・刊。

 518句と、水原秋櫻子の長い序文、本人の後記を収める。

 戦時下の句集だから、「征」「歓送」「英霊」などの語が見られるが、生活吟と等しい吟じかたをされている。

 以下に5句を引く。

箸措きぬ初雁鳴くといふからに

おとめ凭り化粧ひす枯木新鮮に

踏切のかね雪晴の空に鳴る

横文字の貸家の札に蟬しぐれ

初富士に工場地区の音止みぬ

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